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雪山の絆のumisodachiのレビュー・感想・評価

雪山の絆(2023年製作の映画)
4.3


実際に起きたアンデス山脈での飛行機遭難事故を映画化。事件は1993年の映画『生きてこそ』で描かれたのと同じものだが、本作は現実と同様スペイン語の映画となっている。

ラグビー選手団を乗せたチャーター機がウルグアイを出発。しかし、アンデス山脈に墜落してしまう。生き残った29人は何とか生き延びようと模索するが……。

宗教的なテーマに比較的重きが置かれていたと記憶する『生きてこそ』に対して、こちらはリアリティに重きが置かれている。当時にタイムスリップしたような作りこみから始まり、墜落シーンの克明さも相当なもので目を逸らしたくなる。これでもかと襲い来る過酷な状況に苦しみ、嘆き、それでも対話を経て何とか生き延びようとする彼らの姿は気高い。

とかく「極限状況」を描く映画では、人間の醜悪さが目立つことが多い。エゴとエゴがぶつかり合って争いが起きたり、皆が猜疑心の塊のようになって険悪になったり。フィクションではそういった展開の方がありがちだろう。

しかし、この実際に起きた事故において、人間の醜悪さが露呈する瞬間はほとんどない。ある大きな決断をめぐる話し合いにおいても、あくまでもひとりひとりの価値観と意見を尊重する姿勢は守られる。誰もが互いを信じ、なんとしても生き残ることと、隣人のために行動することを唯一絶対の指針として行動するのだ。

彼らが基本的には同一のコミュニティに属していたこと、知的水準が高い人々で何人かは専門的な知識もあったこと、全員が同じカトリックを信仰していたこと、などいくつかの要素があってこその展開だとはいえ、本作は人間が持つ崇高さと力強さをハッキリと示してくれている。かなり衝撃的なシーンが多いので人によっては観ること自体が苦痛になり得ると思うが、ぜひ観ていただきたい。

あと、ちょっとした叙述テクニックというのかな?ちょっとビックリする瞬間があったのでそれもお楽しみに。
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