回想シーンでご飯3杯いける

雪山の絆の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

雪山の絆(2023年製作の映画)
3.5
実話映画を評価するのはやはり難しい。知る事の重要さと、知ったつもりになる危険と、他人の経験をドラマとして消費する行為の是非と、、、。

1972年にアンデス山脈で起こったウルグアイ空軍機571便遭難事故を題材にした本作は、1月4日からNetflixで配信が始まっていたが、ご存知の通り、日本ではその直前に航空機事故と積雪地帯での孤立という、本作に似た災害が実際に起こった事もあり、そのニュースが流れる同じ画面で、あくまで再現映像である本作を観る行為は、先に挙げた葛藤を具現化するもので、僕には到底できない事であった。

このレビューを書いている時点でも、日本で起こった災害が収束しているわけでは無いのだが、1日中その映像がテレビで流れる時期は過ぎ、復興に向けて僕達国民に何が出来るのかを腰を据えて考える段階に入ったと認識している。実際の被害者が監修に携わる本作も、非常事態に於ける人命救助に対するメッセージを前提に作られた側面もあるはずで、今の段階であれば得るべき点もあるのではないかと、鑑賞に至った次第である。

本作は、スマトラ島沖地震を題材にした2013年の映画「インポッシブル」でも壮絶な映像を作り出したフアン・アントニオ・バヨナ監督による作品で、今回も墜落時およびその後の描写は容赦ない。まるでその場にいるかのような感覚を覚える描写は、映像だけではなく、音、そして登場人物の行動や表情を交え、全方面から観客に襲い掛かる。

この事故は、これまでに複数のドキュメンタリーや劇映画として映像化されてきた経緯を持つ。今回は雪山で生存者がサバイバルする為に取った、ある行動に対する倫理的な問題に多くの時間を割いている印象だ。

ネタバレになってしまうので詳しく書かないが、この事故に関する’70年代に出版された書籍やドキュメンタリー映画には、週刊誌の見出しのような副題がついていた事もある。その部分をどう描くかで、僕達受け手の印象も大きく変わる。実話映画を作る上で、そして観る上で、そこは慎重に接しなければならない部分だ。冒頭に書いた通り、1本の映画を観ただけで「知ったつもりになる」のはとても危険なのである。

※本作品のエンドロールは約15分あり、本編の上映時間は2時間10分程度。特に目立って尺が長いというわけではありません。