Jun潤

サイレントラブのJun潤のレビュー・感想・評価

サイレントラブ(2024年製作の映画)
4.0
2024.01.29

浜辺美波×山田涼介×野村周平×『ミッドナイトスワン』内田英治監督・脚本
最近はこういう障害乗り越えていこうぜ系のラブストーリーが多いな
日本なりのポリコレ仕様なのか

怪我で声を失った男・沢田蒼は、用務員として働いている音楽大学の屋上で、投身自殺を図ろうとしていた、事故で視力を失った女性・甚内美夏と出会う。
美夏はピアノの夢を諦めきれず、学生立入禁止の旧講堂にあるピアノで密かに練習を重ねようとしており、そんな彼女のことを蒼は陰ながらサポートし始める。
喋れない男と見えない女性、講堂という特別な場所で2人は交流を重ねていたが、蒼は美夏に対してピアノが弾けるという一つの小さな嘘をついていた。
本当のことを隠し通すために蒼は、音楽家系の名家出身にも関わらず夜遊びに明け暮れ、膨れ上がった借金で首が回らなくなったピアノ科の北村を頼ることになる。
北村に払う報酬のために昼夜を問わず働く蒼、蒼に代わって美夏のためにピアノを弾く北村、北村が弾くピアノに聴き惚れる美夏、それを講堂の外から見つめる蒼。
そして、蒼が声を失った事件にも関わる圭介は、蒼から金を受け取った北村の跡をつけ、蒼や圭介らと揉め事の絶えない暴力団のアジトにたどり着く。
蒼と美夏の無音の愛は、やがて大きな悲劇へと繋がっていくー。

あぁ〜、止まらねぇ。
フジテレビが内田監督のクリエイティビティを破壊する音が止まらねぇ。
場面設定、キャラクター、広がりすぎない人物相関が紡いでいくストーリーラインと、傑作となり得る要素がこれでもかと凝縮されていましたが、個人的な解釈だと色んな忖度とか圧力とかによって、内田監督が出せるであろう全力が抑えられていたように思います。
スコア的にも決して悪くはないのですが、見せ方?ストーリーライン?をもっと上手く構成していればもっとズバ抜けた面白さになっていただろうという惜しさも込めています。

目が見えないながらも力強い目力を発揮させる美夏、喋れないながらも表情と立ち居振る舞いで存在感を出す蒼、それぞれを演じた浜辺美波と山田涼介は必要不可欠なようにも思えますが、実は最重要というか、主役級に必要不可欠な存在が野村周平演じる北村。
ストーリーテラーというか、影の主役というか、もはや個人主演でも遜色ないほど、作品の主軸として機能していた、個人的にはもっと機能してほしかった。
今作の最重要かつ要注目場面はやはり、目で蒼を認識できず、耳で北村を感じていた美夏と、利己的な目的で美夏の前でピアノを弾き、音楽と美夏の魅力に気付いていく北村、それをそばで見守り、何もすることができない蒼、その3人で作り上げた旧講堂という特別な空間だったと思います。
それを主軸に置いて、群像劇のようにキャラクターを掘り下げて、細かい伏線を回収しながら終盤へと話を持っていければ、蒼と北村が抱く愛情の形は果たして純愛なのか執愛なのか、というところに着地できたのかなと思いました。
プロモーションや、最短距離でピークまで行かずに無駄に時間を稼いでいた序盤の展開の時点で、北村は恐らく利己的にも当て馬にもなり切れず終いなのはなんとなく分かるし、結局は美夏と蒼で〆だろうと、内田監督の世界観からしたら予想通りの普通の場所に着地したなという印象です。

話せるかどうか、見えるかどうか、ピアノを弾けるかどうか、金持ちか貧乏か。
人と人とを阻む無音の壁は確かに存在し、それらを超えた特別な空間は愛情や友情でもって作り出すことができる、はず。
Jun潤

Jun潤