ガリガリ亭カリカリ

いぬばかのガリガリ亭カリカリのレビュー・感想・評価

いぬばか(2009年製作の映画)
1.0
この映画よりも酷い映画を作れと言われても作れないレベルで壊滅状態だが、こういった映画のフリをしたやる気のない破廉恥な犯罪的駄作からしか摂取できない豊かさというものは絶対にあり、そこには常識を逸脱したクリエイティビティの一端を垣間見ることができるはずだと、とにかく90分間DVDを停止せずに画面を見つめ続けることから逃避しない懸命さをもってして、映画ファンも映画作家も形成されるはずである。
この映画よりも酷い映画を作れないだろう、という批判は、すなわちこの映画のオリジナル性に他ならない。そういったオリジナリティがない映画なんて本質的にこの世には存在しないはずであるし、この酷さからこそ学ぶべき教訓は、どんな傑作よりも多い。
面白い映画を作ろうと思っていない作り手が映画を撮った際に、時として、どんな天才作家にも書けない驚嘆の台詞が出現したり、もはや前衛的なまでの編集が刻印されていたりして、そういった意味においては、この映画もインクレディブリー・ストレンジ・フィルムなのだ。たぶん……きっと……

犬とかスザンヌ以前に、ひたすら下品な撮影、照明、録音、編集、脚本、芝居、音楽の金太郎飴状態に開いた口が閉まらないので、賢明な観客ならば人生を無駄にしないためにも即離脱すると思う。した方がいい。
けれども、ここまで完成度というものが微塵も研磨されずに、乖離した状態の映画を観ていると、その展開の読めなさも相まって、そして予想を遥かに超える「面白さへの辿り着けなさ」によって悪夢的な不安感すら生じてきて、逆にハラハラした。

「お前、俺のブログかよ!」
最高の台詞。こんな台詞書けない。
こういった超越の瞬間があるから、あらゆる駄作を観ることから逃れられない。

クライマックスとなるペットフードのCM撮影が死ぬほどやる気がなくて、今時の小学生ですらもっとマシな出来の映像を制作できるだろうと思えるレベルで、史上最低のCMが表象される。むしろここまでやる気が皆無だと「やる気出せよ!」という気持ちよりも「そうだね、あなたはそのままでいいのかもしれないね……」というマザー・テレサのような抱擁力の境地に達する。
宣伝では「総勢100匹の犬たちがスクリーンを埋め尽くす!」と言っておきながら、本編を観ていると犬が10匹くらいしか登場しないので、詐欺乙と思っていると、クライマックスで矢継ぎ早に犬を90匹ほど画面に映す。とは言え、「これは詐欺ではありません!」という大慌てな勢いで編集しているため、犬の犬種すら判別できない速度で駆け抜ける。これはつまり、詐欺なのである。

スザンヌがCM撮影直前に過労でぶっ倒れるのだが、それまで周囲にいた人々が倒れた瞬間に全員立ち去り、完全に独りで放置されるのもヤバかった。犬は倒れたら病院に運ばれていたが、スザンヌは倒れたら放置される。

前田健が自室で犬の画像を検索しているシーンが不穏すぎて、犬殺し爆誕にしか見えなかったのもヤバい。

屋上でペットショップ店員とボール遊び中のポメラニアンが気絶して、飼い主に謝ると、「丁度その時間、ホテルで火事があったのをポメちゃんが知らせてくれたんです」みたいなスピリチュアル論旨展開になって本当に怖かった。

飼い主が出掛けた瞬間にゴールデンレトリバーのりっきーがスローモーションで倒れる最悪の展開があるが、ゴールデンレトリバーが横になっているだけで全く悲壮感もなく、突然りっきー視点の回想が挿入されて我が目を疑った。

徳山秀典がハイエースのバックドアを開けたまま停車してコンビニに寄ったくせに、スザンヌの飼い犬で雑種のるぱんがハイエースの中にいたラブラドールレトリーバーのノワと交尾してしまい、ノワの繁殖の機会を台無しにされた徳山秀典が「血統が良い犬と雑種が交尾するなんて!」とカチキレるのだが、もはやどういった気持ちで画面を眺めてよいのか全く分からないままだった。その直後、スザンヌはモザイクまみれのノワのうんちを両手にのせて徳山秀典に見せたりする。
そして、このようなやり取りは原作にもあるらしいが、作法も真剣味もなく撮られたこれらのドラマは、観客の感情を宙吊りにした状態のまま、何も始めず、何も終わろうとしない。

この題材でもしも堀禎一が撮ってくれていたら、どれだけ感情を揺さぶる異化効果の傑作になっていただろうか。命を削りながら魂で"こういった映画"を撮り続けていた堀に対して、謝罪では済まされない無礼千万だけが、本作には刻印されている。

この映画がスクリーンで上映され、それを1800円払って観た人々がいるという事実に天を仰ぎつつ、限りある人生のほんのひとときを無駄にしたのはあなたたちだけではないと、今日も今日とて映画ファンの端くれは酷い映画を観て、無駄な時間を過ごすのである。

追伸:Xから来た方へ。同一人物です!