ちゃわ

メンゲレと私のちゃわのレビュー・感想・評価

メンゲレと私(2023年製作の映画)
4.7
今、ガザとパレスチナの問題が持ちきりだが、パレスチナに住んでいるユダヤ人は、どうやってパレスチナに行き着いたか、全く理解していなかった。
戦争前から早々に土地を買い、移住してきた人達もいるだろうが、この映画のダニエル氏のように、第二次世界大戦後、金も食料も服も何も無く、家族が生きているかも分からない状況で、元々暮らしていた地に帰ることも出来ず(元の国の住民はすっかり反ユダヤ人主義になってしまった)、パレスチナに向かうしか無く、違法船に乗ってやってきた人達もいる。つまり、このホロコーストのサバイバー達が大勢いる地なのだ。

ダニエルは9-13歳までの44ヶ月間、家族と別れ、強制収容所で暮らす。普通、老人子供妊婦は真っ先にガス室に送り込まれるなか、生き残っていること自体が奇跡である。そんな彼の口から語られるサバイバルテクニックは、幼い子供が1人で考え出したとは思えないほど、聡明で直感力に優れている。健康さをアピールしてガス室送りに選別されないように気をつけ、他の人とは距離をとり、感情的にならないようにした。生き延びて、太陽とオレンジの地パレスチナに行くことを妄想し、自分を励ました。涙は何の助けにもならないと、泣かなかった。赤十字の視察に対する隠蔽工作に適した模範的囚人になり、特別に食料や薬まで支給されていた。金髪で美少年であったことや、幼少の頃ドイツ語を学んでいた事も幸運だった。
本編は英語で語られるのだが、彼は元々暮らしていたリトアニア語も話せるだろうし、ロシア語も、ヘブライ語もできるはずだ。一体、何カ国語話せるのだろうか。

人が人を食らう世界も見た。これは初めて聞いたが、連合軍の空撃で収容所が誤爆され、フェンスに飛び散った囚人の死体の肉片をハンガリー人が調理して売っていたらしい。怒りで鍋を蹴ったという。どうやらナチスだけが酷いのでは無く、ナチスによって占領された中東欧の住民達が、ナチス以上に暴走し、ユダヤ人達を迫害していたようだ。アメリカが迫ってきて、西へ西へと移動する死の行進の際も、こうした住民が水や食料をくれたり、助けてくれる事は一切なく、極めて非人道的であったようだ。

しかし、そんな彼が赦せないのは、死と隣り合わせの生活を強いられたことではなく、幸せな子供時代を奪われた事というのがびっくりした。むしろ、彼はアウシュビッツはメンタルを鍛える上で良い学校だったとすら言っていた。

子供時代はもう2度と戻ってこない。今日も世界中で幸せな子供時代を奪われている人々がいる。
ちゃわ

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