脳内金魚

メンゲレと私の脳内金魚のネタバレレビュー・内容・結末

メンゲレと私(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

邦題の『メンゲレと少年』は内容を反映していない。多分現代の『The Boy's Life』だと何がなんだか分からないからだろうが、なら副題でもつけなさい。

予告編だと、あたかも証言者がメンゲレに召し抱えられたとか、ドイツ人が人肉を食べたかのような編集だが、そのような事実はない。少しでも多くの人に見てもらいたいがために、ミスリードを誘うような編集にしたのか、単に刺激的なところだけ繋ぎ合わせたのかは分からないが。配信会社は、ユダヤ人虐殺と言うとてもセンシティブなドキュメンタリーを扱う責任感と自覚を持ってほしい。

内容自体はBGMも、刺激的な資料映像があるでもなく、ただひたすら強制収容所を生き延びた男性ダニエル氏が体験談を語るだけだ。8〜12歳の間の出来事で、当時子供だった氏は収容所の中枢に関わる役目を振られていたわけでもないので、歴史的な面ではおそらく新事実はないと思われる。
ただ、戦争と言うものが幼少期にいかなる影響を与えたのか、ただただ戦慄を覚える。理解したとき恐ろしかったのが、ユダヤ人でも「子供だから」見逃されるのではなく、「子供で労働力にもならないから」真っ先に殺されると言うことだ。だから、氏は如何に生き延びるかだけを日々考えていたと言う。そのために、目の前の惨劇に嘆いたり震えている暇はなく、そのために彼の感受性という人間性は失われていったのだ。連合軍の爆撃により、バラバラになった囚人たちの人肉を食べたハンガリー人たちも、そうして人間性を失わなければ生きられなかったのかもしれないし、やはりユダヤ人だからいいと思ったのかもしれない。

わたしは戦後の教育を受けているので、オーストリアもドイツに併合されていたのでどうにもならなかったことを理解し ているが、当事者のダニエル氏が「なにもしてくれなかったオーストリア人が憎い」と語るのが印象的だったし、実は国際赤十字社が収容所を視察していたことに衝撃を受けた。実は、ナチスドイツを止める手はたくさんあったのだなと知った。ダニエル氏はリトアニア出身だが、自身を「リトアニア人」とは言わず「ユダヤ人」と称するのも色々考えさせられた。如何に、彼らユダヤ人がユダヤ人国家を切望しているか。もちろん、WWⅡ以前からシオニズム運動があったことは勉強したが、ナチスドイツの蛮行がそれを加速させた面は否めないのだろうなと思った。
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