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アメリカン・フィクションのエスのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.6
黒人のトラウマを食い物にする白人中心の出版社、映画業界。痺れを切らした売れない作家が”いい加減にしてくれと”表明を込めつつも、冗談でドラッグや警察からの射殺、”黒人らしさ”をあえてふんだんに詰め込んだ小説を書き上げたら、それが”生々しくてリアル”と世間から大ウケに、というお話。

温かい家族ドラマやジャズ調のスコアも最高でありながら、とにかく作中のモノローグ達に皮肉が効きすぎてて痺れた。自分の思考の枠を悠々にぶち破っていきました。まだまだ勉強すべき恐ろしい現実が沢山ある。3対2の多数決でねじ伏せて、”今こそ黒人の声も聴くべきだからね”って重たい空気が流れる部屋全体みせる描写、思わず唸った。

”ステレオタイプだけが全てじゃない、もっと他だって描かれていいはずだ”、という訴えはどのマイノリティにも当てはまるし、昨今の作品たちに必要な多様性はこれである。差別問題と向き合いもせず、免罪符のようにお涙頂戴物語として同じようなストーリーばかり手軽に消費してたら、お金のことしか頭にない権力を握り締めた作り手側が勘違いをし、文化や芸術が死ぬし、問題だって永遠に解決しない。

対権力となれば、それはもう自分たちがすぐに変えれる範囲外になってしまうので、こういう作品が問題提起をし、話題になって沢山の人の注目を浴び、自分の様な消費者が少しでも考え始めることが重要なのかなと。鋭すぎる社会風刺作、耳の痛さ、胸の痛さと向き合うこと。アカデミーの行方がとても気になります。

一番ゾッとしたのが最後であり、映画監督と一緒、もっとリアルが欲しい、そうだリアルをくれ!スパッと綺麗なフィナーレを!なんて思っていたのも束の間、自分は2時間何を見ていたのかを完全に忘れていました。こうして消費してる以上、私たちは逃れられない、”アメリカンフィクション”から。
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