藍紺

アメリカン・フィクションの藍紺のレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.2
家族の問題に直面した売れない小説家モンク。金欠で八方塞がりの中、自身が嫌悪していたコテコテの“黒人っぽい”小説を半ばヤケクソで書いたところ、予想外の大ベストセラーになってしまう。

これ大好き!爆笑するシーンが多くて面白かった。特にモンクやエージェント(黒人)と大手出版社(白人)の会話のチグハグさが絶妙。強烈な皮肉に笑った後、問題の根深さに真顔になった。
善意の皮をかぶった無神経さ、無自覚な行動に見え隠れする悪意。意識高い系が陥りがちな構造が炙り出され、観ているこちら側も揺さぶられる。
でも決して白人側だけを揶揄してるわけではなく主人公モンクにも向けられているのが効いている。高い教育を受け教養もあり、お手伝いさんがいて別荘もあるのが提示されると、「いや、お前恵まれてるやないかい!」とツッコまずにはいられない。そして若くて売れてる黒人女性作家に偏見の眼差しを向ける彼の差別意識も描き出す。

でも本当に一番面白くて唸ったのは家族ドラマとしての今作の描き方。終盤、母親がモンクに放つ何気ない一言はなかなかヘビーで、私があれを言われたら相当ショックだろうな……。ラストのオチもパンチが効いてる。でも決して冷笑系ではなく、どこか温かくて可笑しみがある。登場人物たちに向ける作り手の愛を感じた作品だった。
藍紺

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