現れる小林

アメリカン・フィクションの現れる小林のレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.7
かなり面白い。

黒人とアジア人の状況を一緒くたにするべきではないのは重々承知だが、個人的に結構共感できるテーマだった。
黒人だからといって、黒人の厳しく荒れた境遇をテーマにした「黒人らしい」小説を書くことを求められることに対する腹立たしさ、反抗心のようなものを抱く主人公の気持ちが大変巧く表現されている。

ゆりやんレトリィバァがアメリカの番組で奇抜な芸を披露しまずまずの結果で終わったことがあったが、それについて話していた知人(日本人)が
「やっぱりアジア人がアメリカのお笑いで成功するには、人種をネタにしたスタンダップコメディみたいなやつをやるのが最適解だから、ゆりやんはそういうのをもっとちゃんと勉強した方がいい」
みたいなことを言っていて、私はその発言に対して、アジア人の表現の可能性を自ら狭めているような卑屈な態度であるような気がして、反射的に嫌悪感を抱いてしまったという経験がある。

先ほども言ったように黒人とアジア人ではもちろん背負ってきた背景から何から色々違うのだが、このような「人種や属性関係ない一人の人間としての表現活動ではなく、周りの求めるマイノリティ像に収まる形の表現が誉めそやされ、そうやって迎合しなければ人気を得られないことへのやるせなさ」というピンポイントな部分に焦点を当ててここまで上質なエンターテインメントにしたのは本当にすごいと思う。
「差別の罪深さ」や「差別されながらもたくましく生きる人々」を描いた映画だけではなく、今作のような、もう一歩深く複雑なところに足を踏み入れた映画が生まれ、ちゃんと世の中に理解されて高評価を受けることができている現状は、なんというか健全で喜ばしいことだと思う。

ただ自分はアメリカ文化にそこまで詳しいわけではないので、細かい小ネタやセリフの元ネタを理解できてないところは多分たくさんある。