ちゃそ

アメリカン・フィクションのちゃそのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
3.9
社会にはありとあらゆるマイノリティが存在する。そして、意図的なものから意識しないものまで、様々な偏見や差別的行為が存在する。多様性という観点からこういったものをなくし、より良い社会にしていこう、そのようにマジョリティ側は理想を掲げる。

黒人作家を主人公に、こうした偽善的な社会の在り方を皮肉を交えて描くのが本作品。これは黒人と白人の間でのみ当てはまる話ではなく、男女平等や身体になんらかの不自由がある方などに対する我々の扱い方にも大きく当てはまる。黒人とはこうである。男とはこうである。そういう型にはまったものの見方を強制している節がある。

なんのための「多様性」や「平等」なのか。目の前に存在する個々の事象や人物に目を向けることなく、掲げられた理想論をもとに判断を下す。こうした盲目的な行動に警鐘を鳴らす。

本作品では非常に多くの皮肉が込められた描写が見られる。崇高な理念を掲げて売れない物書きが一般市民が好むであろう低俗的な黒人小説を書くことで売れる。自分はあくまでも調査の上で書いており、他の似たような陳腐な物書きではないと主張する作家。黒人が黒人同士で言い合う冗談。あげればキリがない。結局本作品は問題提起をひたすらに行うだけであり、ある特定の立場をとるわけではないという構成も、「あなたもね」というツッコミ待ちであるかのよう。そして極め付けは、審査員に受けてアカデミー賞にノミネートされるというデザート付き。これも全部ひっくるめて完成されている。

そして何より分かったように喋る自分自身も「文化人気取り」であると皮肉の対象であろう。あまり書くとさらにボロが出るのでこれくらいで。
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