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アメリカン・フィクションのmidoredのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
2.7
売れない黒人男性作家がヤケクソで白人受けしそうな典型的黒人小説を書いてみたところ大ヒットしてしまう。上辺ばかりの“多様性尊重”を皮肉りたおすメタフィクション的なブラックコメディ。

まずこの映画自体が「アメリカン・フィクション」になっているのが笑いのポイントです。

黒人を主人公にし、型通りにゲイを描き、取ってつけたようにアジア人をちょい出して多様性の格好をつける。出てくる黒人がことごとく教授・医者・弁護士などの権威ある職業についているのも、それはそれで異様です。

特に、主人公のゲイの弟が70年代からタイムワープして来たようなシャツを着て、昼間からドラッグをやって「ボーイフレンド」といちゃついていたのは笑いました。医者の設定はどこに行ったのか。ステレオタイプというものがいかに時代や個人を無視したトンデモ・フィクションなのかということですね。

それでいて、あえての、この主人公。肌の色は薄めだし、小難しい小説を書くインテリであり、今は金持ちとは言えないにしろ、お手伝いさんを雇うくらいの裕福な家庭出身の黒人男性。

ステレオタイプを批判する主人公なので、リアルに近い人物像なのかと思いましたが、この人もまたステレオタイプを裏返しにしたフィクションなのではないかと後で思いました。そう考えると徹底した映画です。

その人生模様はヤケクソ小説にまつわる部分以外はとても平凡で、話も薄ぼんやり進みます。

この人物設定とモヤつくストーリーは、作中小説『ファック』を手放しで喜ぶ白人たちと同じように、私たちもまた非ステレオタイプな黒人主人公の話では物足りないと感じているのだ、といった、差別意識の自覚を促すための仕掛けなんでしょうが、無理矢理な感じもしますし、結果として色々と中途半端な印象でした。そもそもエンタメとして面白くない。

この設定なら、そのままエンタメとしてまとめた方がその主旨も広く伝わったのではないでしょうか。それともインテリ層をターゲットにしているならこれが正解なんでしょうか。

毒蝮三太夫にジジイババアといじられて喜ぶ老人たちのように爆笑している白人インテリ層が目に浮かぶような作品です。自分は白人インテリでもないし、頭で作りすぎている感じが鼻についたので点数低めです。
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