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アメリカン・フィクションのatomaのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
3.0
アイスキュロスのパスティーシュなどインテリな作風で知られる、売れない小説家(兼文学教授)のモンクは、高齢の母がアルツハイマー病に冒され、さらに介護を務めていた妹を失う。精神的にも、経済的にも追い詰められたモンクは、彼が心の底から軽蔑する「白人好みの」黒人ゲットー文学に手を染めるのだが、偽名で書かれたこの小説「マイ・パフォロジー」(「黒人らしい」綴りの間違い)は、彼の意に反してセンセーションを巻き起こしていく。

母のアルツハイマー病、妹リサの死、ゲイの弟クリフ、コララインとの新しい関係、家政婦ロレインの結婚など、主人公の現実サイドで起こる文芸的ドラマは、地味ながら身につまされるものがある。
ただ、それがモンクの小説を巡るコメディタッチのシーンとうまく共存していない感じがした。

そもそも、この「マイ・パフォロジー」=「ファック」を巡る風刺的ドラマは、テーマの表面を撫でさする程度のものにしかなっていないのではないか?
「白人の期待する黒人像に合致しなければ評価されない」「マジョリティの罪悪感を解消するために消費される」というのは、確かにアメリカの黒人が、そして世界の多くのマイノリティが直面している問題なのだろう。だが原作小説(2001年)が書かれて20年以上がたった現在でも、状況はこんなにも単純なのだろうか。

この映画自体をもフィクション性に包み込む、ラストの展開もあまり気が利いてるとは思えなかった。(24/4/21)
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