メッチ

アメリカン・フィクションのメッチのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.3
万人に売れるエンターテイメントというものは、単純明快で固定概念から外れていないものかも…。

売れない小説家の悪ノリで書いた小説が瞬く間に売れていく。小説を書いた主人公も濁すように断ろうとしても上手いこと話が進めば、失態をして話がなくなるであろうかと思いきやそれも上手いこと話が進む。
コメディータッチではありましたが、多数派が少数派の体験談を消費する様を描かれたところこそ、本作の考えさせる印象的なところだったかと思います。

なんといいますか、本作はコメディー作品でしたが、私にはホラー作品に近い怖さがあったように感じました。ある意味怖いというか、「あなたの価値観は大丈夫ですか?」と、作品から問い詰められているかのよう…。作中では、主人公が作家をやっている傍ら評論会の会員も務めていて、世に出されている作品がどうやって評価されているか描かれていましたが、あの会員に私もいたような気がしました。なんなら、主人公が書いた小説を評価する側だったかと…。主人公がその小説を書いているのを知った前提だから「そんな作品を評価してるなんて(笑)」と、みてられます。ですが、それを知らないであの場にいたら私も評価していたでしょう…。まさにホラー。

作中にウイスキーで世に溢れている創作物を万人受けするものはどういうものかを説明されていましたが、結局のところ万人に受けるのは、「安い、早い、美味い」。このご時世だから、尚更そう求めるお客様もいる。
でも結局のところ、主人公が一石を投じなくても知っている人は知っていること。時間をかけて高いからこそ本当に美味しいものはあるし、わかる人はわかっている。それに、わかる人はこっそり楽しんでいるので、全員同じ価値観にすること自体が不毛なのかもしれません。

それと、主人公は天才だから孤独になってしまうと諭されていましたが、私には彼は秀才だけど頑固でいることで、損をしてしまっているだけなのかと思いました。本当に頭の良い人や天才は、気が付いていないふりをして陰で自分だけ得をする働き方をするような、柔らかさ(柔軟)があるのかと思います。
主人公は自分で自分のことを頭が良いと思っているようでしたけど、本当に頭の良い人はそんなことをすればするほど損するからしないと考えるのではないのかと。すればするほど不利になるから、そもそもしないのが得策?みたいな思考をしている気がします。

だからこれらから考えた私には、この作品も主人公の行動も如何に不毛なことをしているか感じましたね。その不毛さを楽しむのがこの作品の良さなんだと思いました。
あくまで主観ですがね。
メッチ

メッチ