三日連続ピザ

アメリカン・フィクションの三日連続ピザのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.7
本作は、ちょっとした嘘が予期せぬ方向に転がるコメディの定番に沿ってストーリーが進行しつつ、その中で2つのテーマがうまく絡み合う。

1つは「芸術家が生活のために妥協しエンタメを選択することが、芸術家の尊厳を失うことになるのか」
もう1つは「大衆が好むマイノリティの悲劇にマイノリティ自身がどう向き合うのか」

主人公は、売れない黒人の男性文芸作家で、大学教員も休職中。母親の介護のために大金が必要になったことから、それまで軽蔑してきた「売れるための黒人らしい小説」を偽名で書いたところ、映画化まで決まってしまい大金が舞い込む。最初は勢いで書いたものの、いざ出版となると何度も中止を画策するが、全て失敗する。さらに、彼自身が審査員を務める文藝賞の候補にその本が挙がってしまう。

印象的だったのは、もう一人の黒人女性作家との会話だ。彼女は、インタビューや取材をもとに書いた黒人女性の貧困に関する小説がヒットしたばかり。主人公は彼女に、「大衆に売れる・求められることを理由に書かれた中身のないフィクションと、同じ理由で事実を書いたとして、その二つは何か違うのか」と問う。芸術においてプロセスはもちろん重要だが、プロセスを知らずに消費される芸術への問いが興味深い。

また、主人公とその対人関係、そして彼自身が考える「白人が喜ぶ黒人男性像」がシンクロする話の構成が秀逸だ。例えば、彼は偽名を使って書いた小説に、家庭を放棄した無責任な父親やマッチョイズム丸出しの男性、薬物描写を盛り込むが、彼の父親は不倫をして家庭を顧みなかったり、彼自身も威圧的な態度で女性に接したり、弟は遊びの延長で軽くコカインを使っていたりする。個人の言動がステレオタイプと重なり、それを自覚した時の気まずさと、個人の物語をエンタメ化したときにステレオタイプになってしまうもどかしさが、前述の「芸術とエンタメ」とシンクロするのが面白い。

本作は、笑いと共に深いテーマを描き出し、観る者に考えさせる余韻を残す。エンターテインメントとして楽しむ一方で、芸術と商業主義の狭間で揺れる芸術家の葛藤を鋭く描いた秀作だと思う。
三日連続ピザ

三日連続ピザ