ノラネコの呑んで観るシネマ

異人たちのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.5
ブログ記事:
http://noraneko22.blog29.fc2.com/blog-entry-1694.html

二周目。
昨年の東京国際映画祭以来の二周目。地味ながらしみじみといい映画だな。
がらんとした冷蔵庫、二部屋しか入居してないタワーマンションが主人公の孤独な人生を秀逸に暗喩してくる。
父母の幽霊との対話で、過去に言えなかったことを吐露するあたりはぐっとくる。 
画面で見るとアンドリュー・スコットとポール・メスカルはそんなに歳が離れて見えないんだけど、この二人20歳違うのね。「君の世代では想像もできないだろう」って台詞に納得だわ。
キャラクターたちは幽霊も含めて実年齢くらいの設定なんだな。
小説とも大林宣彦の映画とも別物だけど、これは確かにあの原作がなければ生まれない作品だと思う。
山田太一も草葉の陰で驚いていることだろう。
過去との距離感とか、失われた存在への想いとか、ちょっと「アフターサン」に似た感覚があるな。

東京国際映画祭。
大林宣彦の映画、と言うより山田太一の小説「異人たちとの夏」の、舞台を英国に移しての再映画化。
脚本家の主人公が、生まれ育った街を訪ねると、幼い頃に亡くした両親の幽霊と出会う。
基本的には忠実な映画化で、設定の大きな変更は2点。
まず、こちらは夏ではなく冬。
英国にはお盆がなく、かわりに家族が集まる祝日として、クリスマスを持って来たから。
もう一点は、主人公がゲイの設定で、このことで幽霊の両親とも確執を抱え、新しく出会う恋人も男性。
これは主人公の抱いている、疎外感を強化するためだろう。
日本も英国も、身内の幽霊は怖く無い。
端的に言えば、心にしこりの様な孤独を感じていた主人公が、亡き両親とのつかの間の邂逅を通して、孤独の正体と自分自身を知って行く物語。
作中に登場するもう一人の幽霊の扱いと、物語の着地点が原作とも大林版とも相当異なっているのも、この世界は仮初めで、孤独は死者生者関わらず付き纏うと言うことだろうか。
主人公の故郷が結構遠く(日本で言えば都心から埼玉くらい?)、行き帰りの電車のシーンが二つの世界の隔たりを効果的に表している。
丁寧に作られた心理劇で、怪談要素は殆ど無くなっているが、これはこれでオリジナリティのあるユニークな映画化だ。