しの

異人たちのしののレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.6
教訓的な怪談みたいな印象が強かった大林宣彦版と比較すると、結末の方向性含め全くアプローチが違うのだが、これはこれで筋の通った作品になっていた。孤独感を克服するのではなく、むしろ自分と不可分なものとして抱きしめる。幽霊要素の解釈が優しい(ディズニーの招待で試写にて鑑賞)。

見方によっては、ラストはクィア同士が慰め合って終わるだけの悲劇に思えるかもしれない。というかそういう側面もあるとは思う。あのビルが象徴するように、あの2人以外には不可侵な領域というのが確かにある。監督の体験や内面を落とし込んでいるだけあって、「人には絶対的に孤独な領域がある」ということを克明に描いているのだ。

従って、本作に登場する両親の幻影は、大林版のように主人公の孤独を束の間埋める存在ではなく、むしろその不可侵性に向き合わせる。両親である彼らにさえ理解されない領域があるということ。主人公の母親の反応もそうだが、とくに自分は父親のあの正直な一言に愕然とした。これはリアルだなと。つまりこれは甘美なノスタルジーではなく、むしろ断絶の映画だ。しかしそれでも彼らは抱きしめ合うし、愛を伝え合う。親子ですら完全には理解し合えないという断絶は、「完全に理解されるかどうかは重要ではない」という希望的なメッセージへと反転していく。

そして主人公のパートナーとも、出会った時点で決定的な断絶が生じていたことが後から分かる。この点において、本作はクィアを描いた話でもあり、普遍的な話にもなっている。しかし、それでも確かにこの2人は寄り添えていたはずなのだ。自分は、ラストでもはや生死の概念を超えてしまうところに力強さを感じた。「君はここにいる」とは、断絶など克服する必要があるのか? という反語に思えた。

もちろん、ニューロティックホラーテイストで揺さぶりをかけた末のアレなので、どうしたって夢オチ感が出てしまうし、そこに悲劇性は見出せると思う。ただ、それは本作が孤独を克服すべきものとしていないからだろう。それでも人は人を愛せる。そして自分も愛せる。そういう作品だと感じた。
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