小雨

異人たちの小雨のレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.5
アンドリュー・ヘイは孤独をえがくのがとてもうまい。寄る辺ない、不安定でこころもとない生命のすがたを表現する。『荒野にて』のチャーリーも世界にひとりきりで立ちすくむ孤独を生きていた。
監督は、セクシュアリティゆえの孤独感に両親の死が拍車をかけた、そのためにだれともつながりをもてないまま生きてきたと主人公のことをインタビューで話していて、それを否定するつもりもないのだけれど、わたしには逆に思われた。
主人公は生まれついて孤独感を持ちあわせていて、それを埋めることはだれにもできないまま成長した。同性愛者であることと両親の死が孤絶した感覚をより強固なものにした、ように見えた。
他人も世界もおそろしい。多くのことにいちいち怯え、傷つく。だれかが手をさしのべてくれるわけでもなく、もう世界とのかかわり方がわからなくなってしまった。
そういうふうに。
ひとりぼっちで生きるにんげんには、とても生々しい感触だと思う。

山田太一の原作を読んでいないし、映画も観ていないから比較ができないのだけれど、現実と非現実があやうく入り交じるのは本作独自のアレンジみたいなものなのかと思う。
それゆえ理解しやすいつくりにはなっていない。
ただ、主人公の寂寥感と孤独が胸にせまって、映画館でひとりぼたぼた泣いていた。 
作品としてのよしあしはよくわからない。
原作ありきの家族への愛情やなつかしさを求めるとしたら、もしかしたらすこし違うのかもしれない。これは圧倒的な個人のものがたりなので。
小雨

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