カカポ

異人たちのカカポのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.5
いきなり日本配給/宣伝への苦言で申し訳ないんですが主人公がゲイで、マンションの隣人・ハリーと恋愛関係になるのことを何故あらすじに書かないの?トレーラーではちゃんと見せてるし、メインビジュアルも本国と同じにしてるのに、どうしてそこだけウォッシュしてしまったのか疑問。あらすじにハリーのことが全く書かれてなかったら何も思わなかったけど「彼との関係が深まるにつれ……」みたいなことは書いてるのに、あえて表現は曖昧にしてるの不誠実だと思った。彼のセクシュアリティは物語の中枢を担う要素でもあるわけだし。

早くに両親を亡くしたアダムはふと訪ねた実家で、亡くなった当時の姿のままの両親と出会う。彼らが生きていたら共に過ごせるはずだった奇跡のような時間の中で、ひとときの安らぎを得るアダム。話したかったこと。聞いてほしかったこと。聞いてみたかったこと……
最近よく見かける「親に理解されたかった/親を理解したかった」という文脈の中にある作品であると同時に、たとえ幻であったとしても愛されていた実感が欲しかったという彼の思いは、大なり小なり孤独の中に生きる現代の人間にとっては響くものがある。

そして、そんなアダムが両親と分かち合いたかったことの一つに、彼のセクシュアリティがある。劇中でもポールメスカル演じる隣人ハリーと恋愛関係になるアダムは、自身がゲイであることをカミングアウトする前に両親を亡くしている。クィアの中にはハリーのようにセクシュアリティを理由に親との関係に難を抱えてしまう人もいるが、アダムの場合はその機会すらも失っていることで、クィアとしても"親の子供"としても二重に孤独を抱えてきた。

アダムが作品の中で出会った"幻"たちが彼に語りかけてきた言葉が、本当に彼らの本意であったのか、はたまたアダムが言ってほしかった言葉なのかはもはや誰にも分からない。
しかし、その言葉をかけてほしかった自分がそこにいることは事実なのだ。
非常に音響にこだわった作品だったのでぜひ劇場で見ることをおすすめします!
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