あべ

異人たちのあべのネタバレレビュー・内容・結末

異人たち(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

本当に素晴らしかった。
生と死、過去と未来が共存するこの不確かな世界において、頑然と存在する「孤独」の実在感とそれに対抗し得る愛の姿。
これだ、これこそ私が映画を見る理由であり心を奪われ続けるものです。
何度も何度も泣きました。ダイナーのシーンで嗚咽が出るほど泣いた。監督は「荒野にて」の人か...。

孤独は寂しいが、誰かに心を開くのはとても恐ろしい。寂しさはやがて恐怖になり、それに耐えきれなくなった時未来が消える。孤独の恐ろしさがずっと描かれている。
愛を与えたところでそれが必ず返ってくるわけではない。人と触れ合ったとしてもこの孤独が、寂しさが全て消えてくれるわけではない。
この世の誰しもがそんな矛盾に立ち向かい傷ついてる。
心を閉ざすことでサバイブしてきた彼と、耐えられずサバイブできなかった彼の2人による珠玉のラストシーン。
とても打ちのめされてしまった。


どうしてあの時ドアを開けてくれなかったの?どうして聴いてやれなかったんだろう?
あの時もっとこうしてやれば、こうして欲しかった、といった過去への後悔と幼かった頃の願いに向き合い、見ないふりをし続けてきた心の傷に向き合う。
アダムが少しずつ傷を治していく過程がとても優しさに溢れていて、この優しさだけでも泣けてきてしまう。

私の大好きな今作の「時が止まってしまった人」アダム。アンドリュー・スコット...なんて寂しい瞳をするんだ...。
そして深い哀しみを空元気で覆い隠すポール・メスカル...。なんかaftersunを思い出すよね。もうこの2人のキャスティングが本当に素晴らしいよ。
年齢差があまりピンと来なかったけど、それぞれ40代と20代なんだな。だからこそ同じクィアでも時代の違いがある。

ラストシーンは、この世界を生きられなくなってしまった全ての人たちへの鎮魂の祈りのようにも思えた。
あべ

あべ