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異人たちのShinMakitaのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
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☆俺基準スコア:2.4
☆Filmarks基準スコア:3.6




イーストロンドンのマンション。高層階に住む中年脚本家アダムは、6階に住む孤独な青年ハリーと知り合う。このマンションにはこの2人しかまだ入居者がいないらしい。
12歳の時に亡くした両親のことを書こうと新作を執筆し始めたアダムは、30数年ぶりに生家のある郊外の町サンダーステッドを訪れる。家は昔のまま残っており、何と両親も当時の姿のまま住んでいた。アダムを息子と認識した両親は、優しく歓待してくれた。思わぬ再会に心が温かくなったアダムは、自分同様ゲイであるハリーと恋に落ちていく…



「異人たち」


以下、ネタバレ・ゴーズ・トゥ・ハリウッド。


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「荒野にて」のアンドリュー・ヘイ監督作品。山田太一の「異人たちとの夏」の映画化作品…ですが、大林監督の「異人たちとの夏」をリメイクした、という雰囲気はありません。NHKのweb記事で読んだんですが、これ文化庁の翻訳事業に選ばれた作品らしく、2003年に初めて海外で出版されたんですね。そこから映画化の動きが始まったので、大林映画が海外で認識されていたとはちょっと思えないんです。ヘイ監督のインタビューでも大林版に言及したものが見当たらないので、多分監督は観てないんじゃないかな。さらに、今作の大きなポイントである「ゲイ」「クィア」要素(監督自身がゲイ)や、ロケーション場所(監督自身の生家)からしても、ヘイ監督が非常にパーソナルな映画にしたかったことが解ります。

主人公がゲイであることが、作劇的に上手く機能しているのが、俺的に満足した点。両親と再会し、子供の頃にできなかった甘えやキャッチボールが楽しくクセになっていく大林版と違い、同性愛であることをカミングアウトすることで親側・主人公側双方の困惑・悔恨と和解というプロセスが描かれていたのが良かったなぁ。恋人との関係性も、大林版では男女の仲を「雪女」的怪談話にしていたけど、こちらはゲイのジェネレーションギャップを描いていました。ゲイについて両親と和解できたアダムとゲイゆえに家族に捨てられたハリーの対比ですね。ハリーの自殺についても名取裕子より説得力は高く、自殺なのかクスリのODなのか明確になっていないのもアリです。

しかし大林版との共通点が2つあって、ひとつは画面のズームアウト。「異人たち」のラスト、ベッドに横たわる2人の画面が徐々に小さくなっていくのは、大林版の場面転換に用いていたショット。うーむ、やはりヘイ監督、「異人たちとの夏」を観ていたのか⁈
もう一つは音楽遣い。大林版はプッチーニで、自殺を仄めかす曲(恋愛成就しなけりゃ身投げすると歌ってる)ではあるんだけど、本作はフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド。単にゲイカルチャーのイコンとして使用してるわけではありません。ドンピシャにアダムとハリーの心情を表した歌詞の"Power of Love"なんか物語と密接に繋がる曲でしたよね。

日本のノスタルジックな幽霊奇譚をパーソナルなクィア映画に改変した作品、と一言で片付けたら勿体無い作品。私は好きです、これ。撮影・ライティングも素晴らしいし、演者たちの抑えた演技が上手いし(クレア・フォイのテンションは秋吉さんに近かったけど)、ストーリーもスッキリしていたし(永島敏行的キャラは無し)、観やすかったな。オススメ。
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