Jun潤

異人たちのJun潤のレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.1
2024.04.26

予告を見て気になった作品。
1987年の山田太一による小説『異人たちとの夏』が、1988年の日本版公開から36年の時を経て、イギリスのロンドンに舞台を換えて2度目の映画化。

ロンドンの街中にあるマンションで暮らす脚本家のアダム。
そのマンションにはアダム以外、ハリーという名の奇妙な男性しか住んでいなかった。
アダムがふとしたきっかけでハリーと顔を合わせてから、アダムは過去の記憶に想いを馳せ、足はかつて自分が暮らしていた町の住んでいた家に向いていた。
そこではアダムの両親が彼を温かく迎え入れてくれた、彼が12歳の時に交通事故で死んだはずの両親がー。
それからアダムは、ハリーに自分がゲイであることを告げ、同じくゲイであったハリーと関係を深めていく。
しかしアダムは、自分がゲイであることを両親に初めて告げたことで、両親の本音を知ることとなる。
アダムがゲイであることに戸惑う両親と受け入れてくれるハリー。
ハリーは自分がゲイであることを周囲に告げ、他とは異なる存在として生きてきたことをアダムに告げる。
今はいないはずの両親と過去の空白を埋め、ハリーと行為を重ねることで現在の空白を埋めていくアダムを、信じられないような真実が待ち受けていたー。

なるほどなぁ〜!
これはいい!いいけどオカルト?ホラー?めなファンタジーだったか〜!
そうなってくるともう少し考証の余地というか、アダム側にそういうことが起きるようなきっかけっぽい場面があったらもっと良かったかもしれません。

しかしそれがなくても、大体の事情はストーリーが進む中でだんだんわかってくるし、なにより死者との対話という切り口から多様な魅せ方をしてきていて見事にやられました。
LGBTQ方面の要素についても、現代的な価値観を押し付けてくるような感じではなく、あくまで十数年前に死んだ両親と現代のアダムとの対比、周囲の目線を恐れて隠してきたアダムと隠してこなかったハリーとの対比でもって、受け入れられている前提で話を進めていたので、違和感もなかったですし、昔と比べてこんなに変わったんだということを改めて感じさせてくれました。

喪った大切な人に対して生きている人ができるのは報告だけ、それも反応が返ってくることは決してない。
だけど今作では大切な息子を遺して逝ってしまった両親がアダムの現状を知り、戸惑いながらも受け入れていく様子や、生きていた頃には話せなかった本音をアダムが話し、それが現在の自分を肯定していくことに繋がっていく様子も描かれていて、切ないけどなんて素敵な空間なんだと思いましたね。

いずれ死別することは今お互い生きている人同士にも起こりうることだけど、アダムと彼の両親にとっては、一度死別してから奇跡の再会を果たしたからこそ、もう一度離れ離れにならなければならないというのはとても切なく、作中でもとてもエモーショナルに描かれていました。
アダムとハリーの間に起きたことについては、それぞれが抱えていた感情に対して想像も及ばない領域なこともあり、こちらからは推し量れないほどの深い愛情があったんじゃないかと、想像が膨らんで止まりませんね。
Jun潤

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