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異人たちのtakのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.7
山田太一の原作「異人たちとの夏」は、80年代に大林宣彦監督で一度映画化されている。亡くなった両親との再会という人間ドラマが心に残ったが、クライマックスのホラー映画ぽい映像が全体から浮いて見えてしまったのを覚えている(名取裕子ファンだから不満が残ったのは大きな理由かもw)。その原作をイギリスが映画化した「異人たち」を鑑賞。

今回の映画化は、主人公男性アダムはゲイという設定になっている。オリジナルでも両親に思いを告白する姿が印象的だったが、本作ではそこにカミングアウトという要素が加わっている。打ち明けられなかった自分のこと。両親はそんな自分を受け入れてくれるだろうか。家族愛が主たるテーマだったオリジナルに対して、主人公の恋愛も絡む本作は、現代的な改変だけでなく、愛することの複雑さにも挑んでいる。

タワーマンションに住む孤独な男性の部屋を同じマンションに住むハリーが訪れることから物語が動き出す。この時、ハリーを部屋に入れない。
「ドアの影に吸血鬼はいないよ」
とかなんとかハリーが言う。なんとなく印象に残った言葉。郊外にある両親の家を訪ねると、アダムが思春期を過ごした部屋にはフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド(以下FGTH)のポスターが貼られている。おや、そう言えばマンションでもFGTHのPV見ていた気がするな。この引用にはきっと意味がある。

洋楽にお詳しい方は、80-90年代のあの頃、ゲイであることを公言していたアーティストがいたことを覚えていると思う。ボーイ・ジョージはもちろん、ブロンスキービート、後にカミングアウトするジョージ・マイケルやペットショップ・ボーイズ、そしてFGTHのホリー・ジョンソンらメンバーもそうだった。特に80-90年代はHIV感染症で多くの人が亡くなった頃で、同性愛者間の感染も大きく取り上げられた。ますますカミングアウトすることがはばかられたのは、きっと主人公も同じだったに違いない。アダムもティーンの頃、FGTHを聴きながら本当の自分を隠していたのだろう、と深読みしてしまう。

そして映画のエンディングで、そのFGTHのバラードThe Power Of Loveが高らかに流れる。ドアの影に吸血鬼は…の台詞はこの歌詞の一節。切ない余韻を残してくれる。音楽の使い方で言えば、両親とクリスマスツリーを飾る場面。ペットショップボーイズのAlways On My Mindも素敵。思わず涙がにじんだ🥹。

大林宣彦監督のファンタジー色とは違い、もの寂しい喪失のゴーストストーリー。後悔をたくさん抱えている大人には響く映画に違いない。


…👻


(以下、蛇足ながら)
でもロンドンの古くもないマンションに住人が二人だけって、現実感味がないよね…

はっ!🫢
もしかして…

とさらに深読みをしてみたくもなる。
(個人の感想です)
tak

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