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異人たちのギルドのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.5
【他者の相互理解で過る”家族の温もり”という願望】
■あらすじ
夜になると人の気配が遠のく、ロンドンのタワーマンションに一人暮らす脚本家アダムは、偶然同じマンションの謎めいた住人、ハリーの訪問で、ありふれた日常に変化が訪れる。

ハリーとの関係が深まるにつれて、アダムは遠い子供の頃の世界に引き戻され、30年前に死別した両親が、そのままの姿で目の前に現れる。
想像もしなかった再会に固く閉ざしていた心が解きほぐされていくのを感じるのだったが、その先には思いもしない世界が広がっていた…

■みどころ
傑作!
マンションの男と出会って親交を深めてから亡くなったはずの両親と出会うようになったお話。
原作未読。1988年に原作を映画化した『異人たちとの夏』も概要を知った程度ではあるが、本作は原作の骨格を引用したクィア映画の質感を覚える。

アダムは火事アラームで外に出るが、マンションから別フロアの男がアダムに向かって手を振る。
部屋に戻ったアダムはハリーに声を掛けられ、少しずつハリーの人隣りを理解し、いつしか互いの個人的な話まで出来る関係になった。
それと比例するようにアダムは回想で少年時代に亡くなった両親と出会うようになる。
両親と当時の状況・現在の状況をアダムは語るが…

異人というのは過去の映画化した『異人たちとの夏』では幽霊として描かれている。
本作は現在の時間軸にいるクィアと強く認識したアダム目線で過去の時間軸にいる両親へ当時の想い・現在の想いを語っていく。
そういった映画的マジカルさは魅力的であるが、本作は『異人』に語りかける自己認識の棚卸とアダム自身の願望…つまり理想に対して現実とどのように埋めていくか?…を他者の温もりに触れる事で再構築していく。

誰かの温もりで燻ぶった何かを癒すだけでなく「異人」と交信する営みで過去のトラウマ・願望へ向き合う叙情的な描写は素晴らしく、そこに至る過程、カメラワーク、画作りも良かったです。

この映画ではアダム自身の内省と願望を描いた映画ではあるが、過去の錨に囚われるが故にアダムの心的幼さ、幼いながらも願望には過去のトラウマの救いも含む矛盾した2つのバランスが存在している。
本来は通り得ない結末を再構築で歩む竜宮城的な環境にいながらも、葛藤を通じて成長する様をアダムとハリーの目配せで見事に描いていてそこも凄く良かったです。

異人を通じてアダム自身が成人として自立する姿は現代社会においても深く刺さるテーマであり、そのテーマの良さも映像・カメラワーク・演出で引き立った傑作でした。
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