ロアー

異人たちのロアーのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.8
ひたすら切なく、ひたすら美しい。

内側から感情を引き出されて肌で感じる感覚的な映画だったから、言葉で感想を表すのが難しい。写真じゃ分からない、その場にいるからこそ感じることができる旅先の空気のような映画だった。

家族として、恋人として、自分の全てを受け入れて欲しい———でも、同じ時を共に過ごし心を曝け出そうとも、血や体で繋がろうとも、結局人は"ひとり"という個でしかなく、誰かとひとつに溶け合ったり心の隙間を完全に埋めることはできない。

原作からそのまま"異人"と言う邦題がついているけど、原題にある"stranger"には、旅人や他人、余所者など、様々な意味が全て内包されているように感じた。
 
「大丈夫」と言って抱きしめてくれる優しさはあるのに、孤独を抱えている人とってこの映画が救いになるのか、それともより孤独を深めることになるのか分からない繊細さ。
むしろ孤独が好きな私は映画に飲まれることなくへいちゃらだったものの、ただでさえあの目にいつも憂いを帯びた役者であるアンスコにはアダム役がはまり過ぎてて、しっかり泣かされてきた。

それと一緒のシアターで観ていた人に若い人も女の人も全然いなくて、おじさんというかおじいさんくらいの人たちばっかりだったのが意外だった。こんなにおじさんばっかりの映画館は「ガンパウダー・ミルクシェイク」以来。ストーリーもよく知らず「異人たちとの夏」も未読/未見で、ただアンスコに釣られて観に行った私だけど、絶対におじさん向けの映画ではないという確信はあって、あのおじさんたちがどんな感想を心に抱いたのかすごく知りたかった。
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