なべ

異人たちのなべのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
2.5
 なにこれ、ただのゲイムービーやん。監督の私小説をやりたいならオリジナルの脚本でやれ。何もわざわざ「異人たちとの夏」を使わなくても。そもそもテーマが違うし。自分のアイデンティティと両親と向き合うのに日本から幽霊映画を引っ張ってくる意味がわからん。もしかして、「はっ、これなら亡くなった両親とのわだかまりが解けるぞ!」くらいの私的な動機で始めた仕事か?
 だとしたら、オリジナル版への理解も敬意も足りてないのも納得。大林宣彦作品を素材として、道具として利用しただけのやな感じがずっと漂ってた。
 もちろんオリジナル版で描かれていた強烈な郷愁や、異人たち(鶴太郎と秋吉久美子)の圧倒的な存在感などあるはずもなく、ただただアダムのカムアウトを受け入れるためだけに両親は存在する。
 さらには、両親が自分たちの死に様を聞きたがったり、母親がアダムを一旦拒絶したりと、付け足されたディテールも下品なんだな。
 なにより、オリジナル版に登場する間宮(永島敏行)がいないのがなあ。これじゃ、現実世界に戻ってこれないじゃん。どんどん憔悴していく描写もなかったから、間宮のように第三者が心配して訪ねてくることもない。このキーパーソンがいることで、原田(風間杜夫)がひとりぼっちじゃないことがわかるのに。
 アダムが生きてるのか死んでるのかすらわからなくて、まるでジェイコブスラダーみたいな「実は◯◯でした話」のようにも受け取れちゃうのはそのせいなんだよね。なんせ最後は星になってたからw
 この閉鎖的な感じが意図されたものだとしたら、やっぱりこの監督、センス悪い。
 よくいえば戯曲のような味わいはあるものの、「ゲイは孤独」を紡ぐには、語り口がどん臭くて締まりが悪い。105分の上映時間が130分くらいに感じられたもん。
 そのくせ、ラブシーンはやけにリアルで、これ、あんたがやりたいセックスなんじゃないのと、居心地の悪い性描写にもセンスの悪さを感じた。
 英国人は米国人に比べてストーリーテリングか下手くそな傾向はあるけど、この監督はとりわけその傾向が強い。独りよがりな“いい雰囲気”がタチが悪い(うまいこと言ってるつもりはないよ!)んだ。
 映画が終わってから調べたら、アンドリュー・ヘイって「荒野にて」の監督じゃないか。「荒野にて」でも思ったけど、こいつは観客の共感を呼び起こすのが下手。「知らんがな!」と思わせちゃダメなのに。
 よし、もう名前覚えたからな。アンドリュー・ヘイの作品は二度と見ないぞ!
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