むらむら

異人たちのむらむらのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
5.0
ロンドンで孤独に暮らすゲイのオッサンを主人公にしたファンタジー。

ゲイのオッサンたちが主役なので、「異人たち」というより「『オジンたち』じゃね?」とか言ってる人は星の彼方に行ってください(←俺)。

登場人物はたったの4人。主人公アダムと、両親、それに、同じビルで暮らす、ゲイの青年、ハリー。

かなりストイックな作品だが、作中の描写に違和感を感じながら観ると、次第に作品の全貌が分かってくるような仕掛け。そんな作品なので、なるべく前知識なしで観てほしい。

俺も基本設定だけ知って観たのだが、後半、物語の全貌が明らかになってくるあたりから号泣。バスタオル持参しといて良かった。

アダムとハリー、おそらくアダムは50歳近い設定で、ハリーは30代って設定なんだろうけど、二人の会話や、ゲイに対する捉え方、「行為」をすることに対する罪悪感など、少ないセリフの中でとても良く伝わってくる。

こないだタイのBLドラマ観てたら、同棲してる主役の男の子たち二人が朝ベッドから起きておはようのキス。「うひょー、勃ってきちゃったー」からの即ハメ描写まであって、「昭和の若妻AVかよ!」と思いながら観てた。どちらが良いってのはさておき、この「異人たち」での行為に対する描写と、タイBLのカジュアルホモセックス的な描写、なんか対称的だったな。

話は戻って、音楽の使い方も素晴らしい。

こないだ80年代から活躍するユニット「PET SHOP BOYS」のライブ映画を観たときにも( https://filmarks.com/movies/114072/reviews/171405110 )、

「この『異人たち』の予告編で『Always On My Mind ( https://youtu.be/wDe60CbIagg )』が流れてる」

って書いた。

この曲、歌詞は

  あなたを大切にしてこなかった
  もっと良くしてあげられることがあったのに
  あなたを愛せていなかったのだろうか
  もっとその機会はあったのに

みたいな内容なのね。

この作品では、アダムの母親が、レコードをかけながら口ずさむ。

失われてしまった家族への想い、叶えられなかったゲイの青年への想い、そういった様々な感情が、この曲の歌詞とシンクロしていて、素晴らしい選曲でした。

この曲は1970年代の曲だけど、1987年のPSBによるカバーが最も有名。余談だが、先日「プリシラ」で単なるキモいオッサンとしか描かれてなかったエルビス・プレスリーもカバーしている。 https://youtu.be/ZotVMxuXBo0

だからなぜ「ペット・ショップ・ボーイズ」版を? ってことなのだが、おそらく、これ、アダムが好きで買ってきたレコードなんだよね。それを母親が

J( 'ー`)し 「あら、この曲、プレスリーも歌ってたから、母ちゃん知ってるのよ。♪メイビー ア~イ ディドゥント トリーチュー」

のように口ずさんだのだと思うのよ。それが、すでに自分がゲイであることで両親との断絶感を感じていたアダムにとって、両親と気持ちがつながった瞬間として強烈に記憶に残ってたんじゃないかなぁ。

子供の頃に自分の聞いてる曲と、親が好きな曲って全然違うから、親が「それいい曲ね」って言ってくれると嬉しくなる経験って誰でもあるよね。それを思い出させる素敵なシーン。

もう一曲、印象的なのが、エンディングでも流れる、同じく80年代を中心に活躍したバンド「フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド」の「THE POWER OF LOVE」( https://youtu.be/WtdRv6GT9Zg )。こちらは1984年の曲。

  僕が死神から貴方を守ってあげる
  吸血鬼を貴方の部屋から遠ざけてあげる

冒頭のハリーのセリフもこの曲が引用されてるので、この2曲だけでも予習していくと、作品により浸ることが出来ると思う。

余談だけど、少年時代のアダムが集めていたレコード、このフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドも、もう一つ、チラッと映ったのがERASURE(イレイジャー)のものだった。

この2つのバンドも、そしてペット・ショップ・ボーイズも、イギリスのユニットで、メンバーにゲイをカミングアウトしてる人がいるという意味で共通してる。

「神は細部に宿る」じゃないけど、こういう小ネタを見つけると嬉しくなったりします。

しかしこの作品、アメリカで作ってたら全然違う、能天気な作品になってそうだよね。

ヴィレッジ・ピープルの「YMCA」とか西城秀樹の「ヤングマン」あたりが高らかに鳴り響いてマッチョなゲイたちが「うおー」とか叫んでる幸せ全開のマッチョ映画になってんじゃないか。

そう考えると、このような繊細な映画としてイギリスでリメイクされたことに感謝したくなりました。

人生に「後悔」はつきものだけど、それを優しく愛で赦してくれる大人のファンタジー。

とにかくバスタオルかスポンジが必須の作品でした。

あと全然関係ないが、この前に観た「マンティコア」とジャケットが自分のフィルマのページだと並んでいるのだが、ゲイと変態がお互い

「プイッ(●`ε´●)」

としてるみたいに見えて草。

(おしまい)
むらむら

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