よどるふ

異人たちのよどるふのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
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原作は山田太一による小説『異人たちとの夏』だが、そちらは未読。大林宣彦監督による映画『異人たちとの夏』は、4年ほど前に一度だけ鑑賞している。大林版と本作とで共通して見られる演出が、寒色と暖色の扱い方だ。部屋の中を文字通り寒々しく見せる画面をデフォルトとして始め、主人公が幽霊と過ごす(そう、この映画は幽霊譚なのだ)シーンでは画面の色合いがグッと暖かみを増していく。夜の暗いイメージとの結びつきが強い幽霊をあえて白昼に置くことで、通常の幽霊譚とは一線を画したビジュアルを獲得している。

そういった通常の幽霊譚とは異なった演出ゆえに、窓の向こうの暗闇に幽霊が佇んでいるシーンを見たときには思わず「反則だ!」と心の中で叫んでしまった。そんな『異人たち』には、大林版『異人たちとの夏』とは大きく異なる点がある。『異人たち』の主人公がゲイであり、「主人公が同性パートナーと関係を築くプロセス」が作品を貫く柱のひとつとして「両親の幽霊との交流」と並んで描かれている点だ。同性パートナーとの関係づくりは「都心にあるはずなのに2人しか入居していないマンション」というどこか現実とかけ離れた場所で繰り広げられ、両親の幽霊と交流する実家も暖かみのある色彩によって異空間の様相を呈している。

合わせ鏡になっているマンションのエレベーターにひとりで乗る主人公が画面の左を向いている序盤と、画面の右側を向いている終盤。前者は主人公が過去を向いていることを象徴し、後者は未来を向いていることを象徴している。本作における大きな山場を越えた主人公が“未来を向いた”ことを指し示したからこそ、その先にあるラストの重大な展開に観客としては驚きつつも、主人公の言動には静かながらも力強い余韻を感じた。
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