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異人たちのtakaoriのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.3
2024年102本目
劇場38本目

原作も未読、日本での映画版『異人たちの夏』も未見で、予備知識なしのまま見たので、「ゲイカップルのラブストーリー」ぐらいの印象で見に行ったのだが、もっとはるかに深く、クィア映画の枠にとどまらずに現代人の孤独を鋭く描いた、普遍性のある傑作だった。原作はやや古い小説だが、それを2020年代のいまイギリスでリメイクして映画化したことには、「喪失の受容」という現代のテーマの重要性を改めて感じた。ノスタルジーと後悔の念、死別した両親への想いが痛々しいほどに切ないだけでなく、ゴーストストーリーとしてのヒヤッとするような怖さもあり、鮮烈な印象を残す映画であった。
ビジュアルだけでなく音楽の使い方も重要な映画であり、中でもペットショップボーイズの曲が2曲使われているのが印象的。このバンドはメンバーが同性愛をカミングアウトしていることでも知られ、同じくゲイ・ソングを歌い続けたヴィレッジ・ピープルの "Go West" をカバーしたことでも有名である。そんなペットショップボーイズの "Always on My Mind" が両親の家のレコードから流れると、ゲイに理解のない母親が「プレスリーもカバーしてたから知ってるわ」と歌い出す。「君を大切にしてなかったのかな 優しくすればよかった」と、母がそれと知らず歌うこの場面は、素晴らしく感動的な名シーンである。
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