アキヒロ

異人たちのアキヒロのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.2
僕はゲイで、画面が美しく雰囲気たっぷりの映画でしたが、
期待していたより感動できませんでした。
むしろ悪い夢を見たような気分です。

まず、原作の映画『異人たちとの夏』の主人公をゲイに設定変更したことについて。
これはある面ではとても効果的に感じました。

『異人たちとの夏』は主人公がある日、ふと生家に行くと、
死んだはずの父と母が当時のままの姿でいて、二人に迎え入れられるという話です。
今作でうまかったのが、現代を生きるゲイのアダムにとって、「ゲイへの風向きが両親の生前と劇的に変化している」のを表現できていることです。

何年も前に死んだ母は、アダムから「自分はゲイだ」と打ち明けられ、困惑を隠せません。
辛くないのか?結婚は?子供は?
しかし、現代ではゲイもずいぶん生きやすくなりました。
同性婚もできますし、子供を養子にしているゲイもたくさんいます。
アダムは母に心配をかけていると思ったのか、それとも母が自分のことを受け入れてくれるだろうかと不安で、自然と目に涙が溜まっていきます。
父の方も同じような誤解を持っていましたが、アダムの説明によって理解した様子。
このあたりの心の葛藤の描き方は繊細でした。

とき同じくして、アダムは同じマンションに住んでいたハリーと知り合いになります。
ハリーもゲイで、だんだんと親密になっていき、ついには恋人と言っていいほどに。
しかし、ハリーはときどき「このマンションは静かすぎる」と意味深なことを口走ります。

結局、両親たちと別れを告げますが、
実は、ハリーも"異人"であり、マンションの中で死んでいたことが発覚します。
しかも、その死体は誰にも発見されないまま腐敗していました。

ここでとても皮肉なのが、
母たちに対してアダムは「大丈夫。今はゲイも生きやすくなっている」と言って納得してもらったのにもかかわらず、
自分の住むマンションの一室で「誰にも知られずに孤独死しているゲイがいる」という残酷な事実。
この事実を知っていたら、両親たちはあれほど安らかに成仏できたでしょうか?

最後、アダムはハリーを必死でなだめ、ベッドで抱きしめて眠りますが、
ハリーがすでに死んでいる以上、アダムが目覚めたときにその横にハリーはいません。
「孤独死」というのはアダムの未来の姿でもあり、
ゲイである僕の未来の姿でもあるんです。
この胸のつまるようなラストには、心がズンと重くなりました。
せつなさを笠に着たバッドエンドでしょう。

このような陰鬱な映画なのにもかかわらず、
内容の情報量はそこまで多くなく、105分も上映時間がありながら、綿菓子を水に浸けたように映画を見た感覚がないです。
悪夢に1300円払ったと思うと嫌な気持ちになりました。
アキヒロ

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