エジャ丼

異人たちのエジャ丼のレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.7
「僕が愛した人は異人だった。」

12歳の時両親を交通事故で亡くした脚本家のアダムは孤独な人生を送っていた。ある日、同じタワーマンションの自分以外の唯一の住人ハリーと知り合い、次第に恋仲になっていく。

日本の小説『異人たちとの夏』原作。日本で映画化されており、キャッチコピーはそちらから拝借。今作はそれのイギリスが舞台になったもの。大筋のストーリーを踏襲しながら、当事者でもある監督のアンドリュー・ヘイが主人公のアイデンティティとしてゲイであることを加え、人と人との関わりを繊細に描いている。

タイトルにもある異人=strangerは多くの意味を含みそうだが、とりわけ今作が特徴的なのは現実と夢(≒妄想)の境目が全くと言っていいほど無いところ。アダム、ハリー、アダムの両親の計4人のみで物語が綴られていくように、孤独に満ちたアダムの生活において、関わりを持つ人間はごく僅か。寂しさを埋めるように行われる対話と、それによって満たされるはずの彼の幸福度の間には、何か見えない溝のようなものがあるように思える。それも、一生埋まることのないような。

その曖昧さが、扱われているテーマの割に映画全体にそこまで苦しい重さを与えていなかったと個人的には感じて、そこが良かった。セクシュアリティ、両親との別れ、孤独、依存、自分の前に立ちはだかる壁として対峙することが多いそれらが、不思議なことに全てが対話をすることのできる存在としてアダムは向き合い続けた。

派手でもなければ何かが起こる映画でもないが、夢と現実の狭間を、時には幻想的に、時には奇妙な現実味を帯びながら行き来できる作品。