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Dream Scenario(原題)のchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

Dream Scenario(原題)(2023年製作の映画)
3.0
ニコケイ×A24×スリラー×コメディ。中年の危機、名声とその副作用といった「マッシブ・タレント」と同じようなテーマを扱いながらも全く違うキャラで演じるニコラス・ケイジの演技が素晴らしく、全体にユーモアのセンスもとてもよい(マイケル・セラがいい味出しとる)。そして、A24らしい不思議な世界の演出は圧巻。一方で、これらのテーマが全くもってきちんと対処されず消化不良、不思議な設定の種明かしも不明のままで、とにかく"すっきりしない"作品で残念でした... 予告編は面白そうだったんだけどなぁ。

主人公はニコラス・ケイジが演じるズバリ"影の薄い男"ポールです。大学教授をしているものの、全てにおいて消極的・受け身で覇気がない。そんな中、ポールのことを知っている人・知らない人を含め世界中の人がみる夢の中に、ポールが登場するという怪奇現象が起き、ポールは瞬く間に"時の人"となっていく...

他のどの"中年の危機"映画よりも、ドラマチックな展開が繰り広げられるにも関わらず、まさかの主人公がすったもんだの挙句、別にその中年の危機に向き合って対処するわけでもなく、結果全く成長しないという衝撃😱いや、ラストの夢の描写でメタファー的に彼の変化を伝えようとしているのはわかるけど、最後の写真撮影の場面など現実の彼の姿には、承認要求と否定されることへの恐怖で意思が弱く流されるだけの相変わらずのポール。じゃあ、このひと騒動は一体なんだったん?

注目は浴び取材は受けるけれど、芸能人みたいな安っぽい企画はご免、学者としての自分を売り出したい!名声を自分の都合のよいようにだけコントロールしようとしたことが裏目に出てしまい... という展開は、結婚報告なのに仕事のことばかり長々書き連ねて残念なことになってしまった某スポーツ選手そのもの。本映画では、フラストレーションがたまったポールが夢の中で、そしてついには現実でモンスターと化していく展開なので、同じことが彼にも起こってしまはないよう心から願う。という名声に関するテーマも、中年の危機問題同様、ポールは全く何も学んでおらず😑

上記に加え、キャンセル・カルチャー、商業主義、エゴや感情のコントロールと暴力などいろいろ社会的なテーマが提示はされるけれど、そのいずれもただ単に"提示"されるだけで、そのテーマに取り組むわけでも解決するわけでもないので、ホント何がしたいのかよくわからない映画(ケイト・ブランシェットの「TAR」と比べると本作のまとめ方の残念度がわかりやすい)。ただ、一般的にはニコケイが素晴らしいのとキャンセル・カルチャーが今っぽいという理由で比較的高評価なようです。

クレジットをみるとニコラス・ケイジはプロデューサーも兼ねている。そして、さらに名が続くのがアリ・アスター。あぁ、そりゃ納得。「ボクちゃんは何にも悪くない、何にもしてないのに、みんなのせい、社会のせいで、ひどい目に合わされる~😡」と自己は顧みず不平や皮肉を言うだけで、主人公は(そして映画も)、問題に対して何も対処しない(から成長しない)。アリ・アスター監督の新作「ボーはおそれている」と全く同じ構造だ... A24はもうすでに彼のおかげで大金を失ったと言われているし、そろそろこの監督と縁を切ったほうがよいのでは。

予告編:
https://youtu.be/q3x9iUL-74w
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