何故か冴えない大学教授の男がみんなの夢に現れるようになり一躍有名人になってしまうお話
監督の前作である『シック・オブ・マイセルフ』が個人的にかなり消化不良感があって微妙に感じていて、本作もその消化不足感が否めないという感想を聞いていたので不安に感じていたものの、本作は素直に楽しめた。
突然世界中の人々の夢に現れるようになった...という奇抜な導入からいくらでも話は大きく膨らみそうなものの、あまり盛り上がることなく徹底して主人公である大学教授の視点を共有して日常を描こうとしているのが面白い。『シック・オブ・マイセルフ』では「無名が有名になろうともがく」ストーリーのため、むしろその盛り上がりの無さが気になったものの、本作は「突然不特定多数の人から注目される存在になった」からこそ、その対比としてのミニマムな日常の中にあるこの事態のどうしようもなさが際立っていて面白い。自分の知らない他人の夢の世界の中にある自分の表象が自分自身と結び付けられていく様が本当にどうしようもなさすぎてただただ理不尽。
ネットのバズを好機だと捉えて進めている研究を執筆して出版しようと思っている大学教授と、彼をスプライトの宣伝に利用しようとするマーケティング会社との会議の場面はシック・オブ〜でも見られた、ネットのインフルエンサーとマーケティングの胡散臭さ、そしてネットのバズが資本主義のシステムに回収される過程が描かれていて良い。こういう人達に恨みでもあるのか。
