なべ

アメリ デジタルリマスター版のなべのレビュー・感想・評価

4.8
 コロナ疫以降、短期間ではあるが昔の映画が上映されることがうんと増えた。午前十時の映画祭を頼らずとも、かつての名画が観られるのはとても嬉しい。配信されていても(ディスクを所持していても)、もう一度劇場のスクリーンで観てみたい、そう思う作品は多いから。
 最近だと、ビデオドロームやセブン、ジョーズ、覇王別姫などが再上映され、昨今の作品にはない映画のチカラをまざまざと見せつけられた。
 今回のアメリもいつかまた劇場で観たいと思っていた一本。友人を連れて、あの独特な世界に浸ってきた。
 平成生まれの友人は、おもしろかったけど、アメリ超ヤバい奴じゃん!もしこいつが男だったらかわいいとか言ってられないよ。サイコサスペンスだよ!と、こちらが期待してたのとは違う反応が返ってきたけど。うん、この20年の間にモラルやコンプラが格段に上がったからそういう反応になるのも無理はない。
 確かにそうなんだけど、この映画が好きな人はそこはツッコまない。ジャン=ピエール・ジュネの奇妙で不思議な世界観を作家の個性と素直に受け入れちゃうのだ。
 ティム・バートンなんかもそうだけど、ある種社会性が欠如した独自の世界観を作品に反映させる作風なんだよね(実はティム・バートンの世界観はちょっと苦手で、正直にいうと幼児性が気持ち悪い)。ギレルモ・デル・トロも同類だろうけど、もっと社会性のある陽キャオタクだよね。

 ナレーションとともに猛スピードで始まるオープニング。物語とは1ミリも関係ない話から、その頃アメリの父親の精子は母親の卵子に着床していたって、どんな始まり方だよ!
 怒涛の少女時代をあっという間に駆け抜けて、大人アメリの登場。ピュアな少女性を保ったまま大人になったアメリをオドレイ・トトゥが演じている。愛くるしい。その無垢な表情に恋しそうになる。第四の壁を越境して話しかけられるとドキドキしちゃうよ。ぼくはアメリに地下鉄のザジと近しいイメージを持ってるんだけど、他にそんな人いないかな。
 絶望的な孤独の中で育んだ想像力を武器に、他人の人生に(違法に)介入し、プロデュースするアメリ。短い悪戯エピソードの積み重ねで繰り広げられるシーンのなんと楽しいこと。とってもアトラクティブでラブリーでチャーミング。あまりにかわいくて、こちらはアメリが自身の周りに築いてる心の壁になかなか気付けないんだけど、大丈夫。ガラスの骨を持つ老人・レイモンがすべて見てくれてるから。普通の人のように世界を味わえない老人だからこそ、尊い金言を与えてくれる。
「おまえの骨はガラスのようにもろくない。思い切って人生にぶつかっても砕けることはない」
じいさんグッジョブ!
 人生アップデート作戦で他人を幸せにし、証明写真のミステリーの謎を解き、迷走するニノへのアプローチでクライマックスを迎えるこの物語が大好き。
 バイクに二人乗りするアメリとニノの幸福な瞬間を見届けながら、このシーンが映画の終わりだと知ってることを残念に思う。見たいけど見たくないようなこの気持ち。
 アメリを中心に波紋のように広がる物語が、凝り固まったこころをほぐしてくれたひととき(起承転結じゃない話運びがまた粋なんだよな)。場内が明るくなってからも、しあわせのカケラは自分の中に残されていて、じわじわと染み出していることを感じながら劇場をあとにした。

 最後にひとこと。
 おしゃれ映画って切り口でウェス・アンダーソンとひとくくりに捉える人がいるけど、すごくいや。おしゃれにかまけておもしろい話が描けないウェス・アンダーソンと同列に語って欲しくない(ファンには申し訳ないけど)。
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