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サンクスギビングのyahのレビュー・感想・評価

サンクスギビング(2023年製作の映画)
4.7
クエンティン・タランティーノ&ロバート・ロドリゲスによる2007年公開オムニバス映画『グラインドハウス』より16年越しに生まれた派生作品でもある本作。

『グラインドハウス』とは、B級映画やショッキングなZ級スプラッターを上映していた場末の映画館“グラインドハウス”で掛かりそうな長編映画2本、そしてその間を繋ぐ広告や「実在しない映画のフェイク予告編」を織り交ぜた一本の作品。

3時間を超える完全版(U.S.バージョンと呼ばれる)は、日本国内ではTOHOシネマズ六本木・なんばの2箇所にて1週間限定上映され、その後タンティーノ『デス・プルーフ』・ロドリゲス『プラネット・テラー』それぞれのディレクターズカット版が全国で広く公開された。

「他館で何度も使い回された上映用フィルムは傷だらけ」という設定まである『グラインドハウス』のメタ的な魅力はサブスク配信では味わい尽くすことができないのだが、両作ともに日本国内での上映権が切れてしまい今後の再上映は難しそう。U.S.バージョンは残念ながらDVD/Blu-rayも廃盤だが、ディレクターズカット版はHuluやU-NEXTで見放題配信されているので、本作に興味を持った方はぜひ


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本作『サンクスギビング』は『グラインドハウスU.S.バージョン』でのみ上映/収録された、イーライ・ロス監督によるB……いやZ級スラッシャー映画の「フェイク予告編」を元に、16年越しに長編映画化された一本。

当時の予告編は1980年代設定、長編は2023年の現代劇なので、本作には「ショッキングな映像により発禁になり予告編以外全てのフィルムが廃棄された『サンクスギビング1980』のリブート映画」という笑ってしまうような裏設定が与えられた。意外としっかりしているのだ。


実は本作同様に『グラインドハウス』のフェイク予告編から生まれた長編がもう一本ある。

みんな大好き、ダニー・トレホ主演『マチェーテ』だ。
あちらは直後に長編映画化されたため、予告編のシーンをそのまま使用できている。ちょっとだけ羨ましい。(長編版にてリンジー・ローハンが演じた役のみ差し替え)


🩸🪓🎩


2023年に改めて命を吹き込まれた『サンクスギビング』は、不道徳な若者たちが殺人鬼に1人ずつ狙われる祭日を描く超王道スラッシャーだ。

自身が犯した罪以上に無惨な方法で処刑され、街中の見せ物にされる様子は「確かにR-18だ」と納得せざるを得ない。



以下ネタバレではないが本作の作風への言及アリ


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予告編では隠されているのだが、実は本作は序盤から非常に良質で爆発力のあるブラックコメディ映画であることが明かされる。配給ロゴから煽りに煽るおどろおどろしいホラーBGMを一気にひっくり返すほど、笑いの渦が待っている。

タイトルロゴの静寂が爆笑に包まれる試写会場、あの場にいた誰もそれを想定していなかったからこそ得られる強い快感のようなものがあった。ラストのラスト、劇場の明転までしっかり笑わせてくれる本作は間違いなく『コメディ映画』としての側面が強い。


そして、覆面の殺人鬼“ジョン・カーヴァー”は一体誰なのかというちょっとしたミステリー要素も楽しませてくれる。そこまで本格的な推理・考察は必要ないので、ただスクリーンに身を委ねるだけで犯人探しを楽しめるのはお得感さえある。

序盤にはテンプレ的なジャンル物の、終盤には超名作サイコスリラーへのオマージュが捧げられたシーンもあるので、まさに至れり尽くせりな2時間だ。


ポップコーンにコーラ、ビールが最適な本作、2023年の〆または2024年の華々しい一本目にぜひ。予想以上のクオリティに大満足間違いなしです。
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