悪魔の毒々クチビル

君にサンキュー!の悪魔の毒々クチビルのレビュー・感想・評価

君にサンキュー!(2020年製作の映画)
3.7
SOFIA YOU BEACH

高級ホテルの従業員が宿泊客に一目惚れするも、相手が誘拐犯だったお話。


マレーシアのコメディ映画です。
監督にエイドリアン・テー、主演にハイルル・アズリンと、以前投稿した傑作アクション「WIRA」のコンビがお送りする作品。
そして「WIRA」同様、今作もネトフリにありますが既に日本での配信は終わっているものの、英語字幕付きなら観られます。
どうやら一部のアジア圏の作品は国内で配信がされていなくても、ネトフリの言語設定を英語にすれば観られるらしいですね。まぁこれは普通に出演者で検索すれば出てきましたが。

さて、ハイルル・アズリンと言えばやはり魅力はアクション。特に「WIRA」での立ち回りは大変素晴らしく、ラストのヤヤン・ルヒアンとのバトルはこれまで観た中でも特に好きなバトルシーンの一つです。
じゃあ今作のハイルルさん演じるアイマンはどうか。
はい、今回は一切アクション無しです。無いんです。それどころかまさかのデブキャラです。
ダサい髪型、能天気な性格、そして腹に何か入れてしっかりデブを表現していまして「WIRA」の時のムキムキ硬派なキャラとのギャップが凄い。
実はハイルル、日本に来ていないってだけでホラーコメディ映画を自ら監督兼出演したりと、アクション以外のジャンルにも挑戦していたりします。なので本人的にはこれもノリノリだったのかもね。

これまで「WIRA」含め他のアクション映画で共演してきて共にアクションを披露したヘンリー・ヒーも、アイマンの同僚であるバカマッチョなキャラで出ていますが全然アクションはないです。
関節極められて「ママー!」と泣き叫んだり、それでもシンプルに筋力の差で相手を圧倒しちゃって喜ぶコミカル節全開のキャラでした。

一応ネトフリの紹介文的にはアクションコメディなんだけど、アクションのクオリティは高くない(と言うかほぼ無い)ですし、アイマンにずっと片想いしている厨房勤務のジェーンが頑張って告白しようとする様を見届けるラブコメ映画だと思った方が良いです。

普段はバカなノリで楽しんでいるアイマン達が、誘拐された富豪を救うために試行錯誤しながら戦おうとする様は面白かったし、何故かオネエなオーナーまで一緒に戦うのも笑えました。
ガソリン入りの水鉄砲や水風船を相手の銃や身体にぶつけて銃を使えなくする、みたいに何気にちゃんとした作戦なのも偉い。

そんな訳でコテコテのコメディが割と楽しいんだけど、一番笑ったのはしれっとシェフの格好をしたヤヤン・ルヒアンが出てきた所でした。
そのまま厨房で鶏肉を切ろうと苦戦するジェーンに包丁を渡し"Itu tajam."(こっちの方が切れるぞ)と、「WIRA」のラストバトルのアレをしっかりパロディしていて更に笑いました。
今作のヤヤン、何があっても"Itu tajam."としか言わないんだけど「WIRA」を観ていないと何で同じことしか言わないのかは分からんよね。
因みに中盤、アイマン達のピンチに駆け付け強キャラ感満載の演出の中格好良く構えますが、誘拐犯リーダーのソフィアの威嚇射撃にビビって"Itu tajam."と言い残しゆっくり立ち去って行く完全なるネタキャラでした。
ヤヤン史上最も役に立たないキャラでしたが、正直これまでの展開で「だろうな」っていうのは分かりきっていたので特に不満はないです。
取り敢えず俺もマレー語(インドネシア語でもある)は"Itu tajam."だけは覚えました。

と言うか今作、ちょいちょい「WIRA」ネタが多い。
あっちでハイルルの妹を演じたフィフィ・アズミと、そのフィフィの敵だったイスミ・メリンダがジェーンの恋路を応援するバーの従業員役で、麻薬工場のボスだったダイン・サイードは盲目の宿泊客役でそれぞれ出演しています。
因みに今作ではフィフィの役名がヴィー、イスミがヅァインと、「WIRA」の時と逆になっています。
まぁ向こうでシバき合っていた二人が仲良くジェーンを応援している姿は、結構微笑ましくて良かったです。

ただラストバトルが何故かほぼアニメで描かれていたのは意味分からなかったし、完全に蛇足でした。
ハイルルの動けない設定ならではの動きとか観たかったので、ここは大いに不満です。

良くも悪くもベタベタなコメディでしたが、俳優陣を知っている身からするとギャップも楽しめたので、普通に好きな作品でした。

個人的にハイルル・アズリンはその身体能力含め、もっと海外で知られて欲しい俳優ですし彼の出演作ももっと観たいなぁと思っています。
が、悲しい事にほんの数週間前にハイルルが俳優業を引退した事が正式に発表されてタイムリー過ぎて凹みました。
その前に今年撮影中に膝を大怪我してしまった旨の記事も見掛けて、それが影響しているのかとも思いましたが、どうやら家族との時間を大事にしたいようで、残念ですが外野がどうこう言える事じゃありませんしね。
今年出演した作品でキャリアの締めくくりになるそうで。
だからせめて今までの出演作だけでももう少し日本で観られる様にして欲しいから、皆も「WIRA」観てもっとハイルルさんカッケー!って発信していこうな。
Itu tajam.