フラニー

エリス&トムのフラニーのネタバレレビュー・内容・結末

エリス&トム(2023年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

ブラジル映画祭 in 名古屋2024 にて
最終日に間に合いました!

本当に素晴らしい時間でした🥹✨
人生の名盤のうちの一枚、『ELIS & TOM』の制作過程が映画になっていただなんて、これまで知りませんでした。

冒頭から大好きな(みんな大好きな)
「三月の雨 」のリハーサル風景…こんな祝福された音楽ってあるかしらとずっと思っていました。ジョビンとエリスの掛け合いが本当に楽しそうで息ぴったり✨
…ところがあの名録音の裏には、もしかしたらこのアルバムが生まれなかったかもしれないエピソードがたくさん隠されていました。

まず驚きは、この2人、お互いあまり良い印象を持っていなかった。たぶんエリスはジョビンのこと嫌いだった。
そして、アントニオ・カルロス・ジョビンという天才は、本国ではあまり人気がなかった!アメリカでトム・ジョビンと呼ばれて天才が世界に知らしめたけれど、ブラジルではエリス・レジーナこそが絶大な人気があった。その人気の影もあるのだけど…。
トムの洗練された音楽は、サンバ好きなブラジル人には理解されなかった。アメリカのJAZZミュージシャンたちが彼の天才ぶりに気がついたわけで。

このアルバムが生まれなかったかもしれない危うさは、なんとエリス側ではトムと組むことで、名声をあげようとしていたのだけど、エリスはブラジルからピアニストで編曲者セーザルを連れて渡米したが、トムの方ではとうぜん自分が編曲するつもりでいる。
エリスはトムのこと、何様なの?って感じになってブラジルに帰ろうとしているのですよー!
でも、マネージャーが遥かブラジルからロスにかけつけ、そしてセーザルという人が懸命なアーティストだったおかげで、この3人は少しずつ心を寄せていくのです。それは、素晴らしい音楽と美しいポルトガル語があったからでした。。

このアルバムに参加したミュージシャンたち、そして大好きなギターリストのロベルト・メネスカルさんがチャーミングにたっぷり当時のことを話していました。

当時の映像の中にはトムの名言もたっぷり!
トムが好きな曲を弾いているシーンで、自分が唯一コピーするアーティストことをこう言います。
「愛する者からしか奪えない。ストラヴィンスキーの言葉だ」

「ばらに降る雨 」という名曲を、トムのギターにエリスが合わせ、傍らでセーザルがピアノを弾いてる(この曲のピアノ、ジョビンだとばかり思ってた!)
エリスが歌いながら「なんて音程なの」
トムが「だから僕は自分では録音しなかった」なんていったりして。そして美しいピアノソロでトムが「ああなんていい曲なんだ」って言うのです。初めは不協和音でしかなかったアーティストたちのハーモニーが高みに達していくシーンでした🥹

ジョビンの娘さんが父について語るシーンも印象的
「父はよく言っていました。自分は鉛筆よりも消しゴムをよく使うと。」
トムのミニマムな音楽の秘密ですね。

トムの口からジョアン・ジルベルトやカエターノ、ジョアン・ドナートの名前も出てきたりして、もう胸がいっぱいでした。

エリスの最後について、彼女は自身の才能と音楽の奴隷だった。いつも完璧な状態でステージに立ちたかった。そして自分で時間を凍結させてしまった。と語られていて悲しすぎました…。

でも、ほんとうにこのアルバムは素晴らしかった。45年以上も新たな世代に聴き継がれている。彼らの音楽は未来への音楽だった。ところが今の音楽は今だけのものだ。とこのアルバムのブロデューサー(有名な人)が嘆いていました。
たしかに。そうかもしれない。
こうして残っていく音楽は、本当に芸術。
このアルバムはボサノヴァと呼ぶには深みがありすぎて、ジョビンと本物のブラジル歌手によるブラジルミュージックなんだろうなぁ。。

それにしてもため息が出るほどエリスの唄声が澄んで、トムが彼女に合わせて歌う低い声のハーモニーが完璧すぎて…鳥肌立ちっぱなし!
瞬きも出来ないほどに釘付けになる素晴らしいドキュメンタリーでした。
フラニー

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