Taku

世界の終わりにはあまり期待しないでのTakuのレビュー・感想・評価

4.5
大傑作。偶然にも『オッペンハイマー』と同じく、単なる時間軸的文脈ではなくモノクロ/カラーが使い分けられていた。
 この映画には2つの「反復」を感じた。まずは「車の運転」の反復。主人公の女性と、彼女が「対話」する映画『ANGELA GOES ON』の主人公は職業柄、車をよく運転する。古い考えでは「車」は幾分か男性性を表象するアイテムとして捉えられる。例えば『ドライブ・マイ・カー』でも、西島秀俊が運転席を降りる展開は、そういうマッチョイズムから降りる瞬間として印象的だった。本作では車を運転する彼女らに対して、見ず知らずの男たちが「女なのに〜」だとかセクハラ紛いな言葉を浴びせる。彼女らが運転する場面は劇中何度も反復される。同じ動作の反復といえば、『ジャンヌ・ディエルマン〜』を思い出した。『ジャンヌ・ディエルマン〜』では主婦が家事をする毎日を淡々と見せていて、「女性が行う仕事」として一般に表象される動作の反復だったが、本作は「車の運転」という男性的だと表象されがちな行為を女性が反復する映画だった。
 2つ目の反復は、SNSによる虚実の反復。主人公は度々SNSのフィルタリングで男と化し、過激な言動を配信している。この配信をしている時はカラーになるのが、現実/SNSのどちらが「リアル」なのか分からなくなり面白い。彼女は普段は貧しい人に求められたら、しっかりと応じる善人。一方で配信時には彼らを物乞いだと見下している。SNSを介したそういう「ジキル/ハイド」的な虚実の反復は、オトナ社会のいやらしい面を見せる長編デビュー作『The Happiest Girl in the World』を想起するドタバタな後半へ繋がっているように感じた。

『ANGELA GOES ON』の場面で度々スローになるが、そのタイミングがいまいち掴めないところがあった。見返したい。

(重要)もし公開されたら、ウーヴェ・ボルのファンは必見!
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