俺は朝露を見ても特別な感情を抱かない。
新緑の中で深く息を吸い込んで、できるだけ頭の中をフラットにする。そうした一種のリセットボタンが日常には必要だと感じている。
そうでなければ頭は常に動き続けてしまう。冷蔵庫に残ってる野菜を早く使わなきゃな、旅行の日取りも決めとかないと、そういえばポケットに入ってた植物の種って何が育つんだろ、なんてことばかり考えてしまう。映画を見終わったらもう一本見に行こうか、お腹が空いたけど何を食べに行こう、夜は予定があるから散歩は何時までに切り上げなきゃ、とか。
リセットボタンを何にするか、いつ押すかは自分で決めるものだと思いがちだけど、そうとも限らない。友人と食事をとったり、近況を話し合ったり、肉親に会ったり、名前も知らない人に新しい世界を見せてもらったり、川べりを歩いて小魚を探したり。
バス・ドゥヴォス監督のことは知らなかったけど、一見凪のようにも感じる人の心の機微を切り取る力が強い。まるで自然界に元からあったようにも見える人工物の撮り方も、静かで力強かった。
