ギルド

Hereのギルドのレビュー・感想・評価

Here(2023年製作の映画)
4.5
【偶然と継承から生まれた「私の居場所はここにあるよ」という安心感】
■あらすじ
ブリュッセルに住む建設労働者のシュテファンは、アパートを引き払い故郷のルーマニアに帰国するか悩んでいる。

姉や友人たちにお別れの贈り物として冷蔵庫の残り物で作ったスープを配ってまわる。
出発の準備が整ったシュテファンは、ある日、森を散歩中に以前レストランで出会った女性のシュシュと再会。
そこで初めて彼女が苔類の研究者であること知る。足元に広がる多様で親密な世界で2人の心はゆっくりとつながってゆく。

■みどころ
傑作!
本作は建設労働者シュテファンが長期休暇をきっかけに故郷へ戻ろうか悩むお話である。
その中でシュテファンはブリュッセルでお世話になった人々へスープを振舞う形で挨拶に回るのだ。
本作はシュテファンの地道な挨拶回り、苔研究者でもあるシュシュの2本軸で話が進んでいく。

シュテファンは故郷へ帰るかどうかのモラトリアム期間中に手の中に種を手にし、その種が何なのか?という調査をしていくが、種が将来の可能性という補助線として使われ「何かが芽生える」という予兆として良い緊張感を与えている。
この「種を手に取る」という仕草は終盤にも映画的マジカルさという形で現出するが、シュシュと出会う”偶然”というトリガーでシュテファンの内面に”何かが”発芽するのは興味深い演出でした。

一方で、シュシュは苔の研究者として顕微鏡で苔を観察するという姿を中心に映していく。
顕微鏡で苔の組織観察をするのは自分とは異なる存在の本質・内面を観察するというメタファーでもあるが、そういった演出をドストレートに魅せる事をしていない。
シュシュは研究者という生業をシュテファンに追体験させる。
その追体験を通じて、本質・内面を見つけ直す…という営みを継承していくのだ。

シュテファンの行い、シュテファンの遭遇する場所・出会いの偶然、偶然を通じて他者の営みの継承…それらを通じて、シュテファンの抱いた思想にマジカルを起こす。
そこに「私の居場所はここにあるよ」という安心感があると共に、目の前にいなくても彼のアイデンティティで居場所を伝え合う…そういった演出が高級感あって素晴らしい映画でした。

この安心感・温もりは同時公開された「ゴースト・トロピック」でも同様ではあるが、異なる二人の物語が「偶然」と「営みの追体験」のトリガーで変化の予兆を促していて「ゴースト・トロピック」とは違った見応えある映画でオススメです。

余談だが、本作はスープがとても美味しく映されているがエンドクレジットにスープ担当者がちゃんと映ってて良かったです。
アレ観たらSoup Stock Tokyoに行きたくなったもん。
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