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Hereのmozzerのレビュー・感想・評価

Here(2023年製作の映画)
4.0
男女2人の日常と出会いを、自然の美しさと淡々と過ぎていく時の流れと共に描いた作品。これ程静かな環境で観るべき映画はないと思えるほど、音作りにこだわりを強く感じさせられた。特にあのシンプルなギター曲がこの映画に合っていて強く印象に残りました。

まず気になったのが男性主人公のシュテファンの表情。移民労働者として苦労してきたのか、すごく表情が乏しくみえた。夏休暇の為にあいさつ回りにいくけれど、どこか言葉や表情に元気がなく、どこか虚ろに見えたことがまず気になった。不眠症であるかのような描写や会話もあり、姉に会いに行ったときも途中で眠ってしまう。そういったことから、彼は何かしらの原因又は移民労働者としての日々の辛さなどによって、心の病をかえていたのかもしれないと思えた。そして、そんな日々から逃れる為に姉には、もうベルギーには戻らないかもしれないと伝える。「ここは俺の場所」という冒頭の言葉に、どこか所在のない立ち位置や孤独の中で苦しんでいる一人の人間であることへの苦悩が感じられた。

そんな時に出会った女性主人公シュシュとの出会いによって、少しずつ彼の気持ちに変化が現れる。表情や言葉にも心なしか活気が出てきたように見えた気がした。だけど、そこはぶっきらぼうというか、人の気持ちに鈍感というか、森での再会後一緒に歩くシーンがあるけれど、彼女のペースに合わせることもなく一人先に行ってしまったり、植物を大切にしている植物学者の彼女の近くで棒を手に回りの草をバシバシ叩いて嫌な顔されたりと、やはり彼が何かしら心にキズを持っているからなのか、それとも単になんか嬉しくてしてしまったことなのかと思わせられるシーンでした。

淡々と進む中にも、はっとさせられるシーンが所々あり、特にシュシュが靴ヒモを結んだ後、いつの間にか戻ってきたシュテファンが手をさしのべて一緒に立ち上がるところは、表情が見えないながらも、観客に様々な可能性を想像させる大変印象的なシーンでした。(多分お互いに笑顔だったんだろうなあ。)

最後のシーンの解釈としては、私は結局シュテファンは国に帰らなかったのではと考えます。なぜなら、もう冷蔵庫は空にして電源も切っていたのに、その後手作りスープが届けられたこと。ということは彼はお礼の気持ちだけでなく、辛かった日々に何かしらの希望を持つことができたからこそ、また材料を買って彼女の為に何かしたいという気持ちになれたのだと思いたい。(あくまでも私の希望的観測ですが(笑)

名前を聞くのを忘れたってオチはよくあるけれど、淡々と進むこの映画では丁度いい印象を与えるユーモアでほのぼのとさせられた。そしてはっとしたところで突然終わるのも印象的でした。

これは映画館の静かな環境で音を感じながらじっくり観てほしい1本です。
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