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リンダはチキンがたべたい!のkyoyababaのレビュー・感想・評価

5.0
最高に美しく素敵な映画。

全編水彩画でどのシーンを切り取っても絵画のようで、アニメーションより先に音声を録音する手法によって、まるで実写をそのままトレースしたかのような躍動感と活き活きとした表現が続いた。

チキンを食べたいという要求は、大人たちのゼネストとの対比で、しかしそのリンダの要求は次第に周囲を巻き込んだ壮大なものとなり、最終的により強い影響力をもって成就されたのが興味深い。(特に描かれていないが、ゼネストはおそらく何も問題を解決しないのだろう。)

殊に、娘との約束を意地でも果たそうとする母親を、彼女は違法行為まで犯しているのに、最終的にみんな楽しかったからオーケーとするフランス的適当さにはすっかり懐柔されてしまった。

注意したいのは、この作品の登場人物はみなゼネストに参加していない、あるいはする必要や権利がないということ。労働問題や格差と繋留して語るのは野暮であるかのように見え、一方で戦争や社会問題を知りながら卑近な幸福や不幸に左右されて人生を紡いでゆく「団地の面々」は、まさに我々のことでもある。
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