鹿伏

リンダはチキンがたべたい!の鹿伏のレビュー・感想・評価

3.7

「覚えてないことは存在しないのと同じなの?」

めちゃキュートな作画!
輪郭のとじられてない筆絵の流動的な主線はどことなく高畑勲を思わせるし、写実とはまったくかけ離れた着彩もめっさいい。キャラクターごとに割り振られた、主線を無視した、ともすればラフっぽく見える着彩のまま動く映像をあんまり見たことなくて(正反対のアプローチだけど着彩に限っていえば2023のタートルズみたいで)よかった。それになにより光の陰影の付け方が抜群だった。とくに姉の家から車で帰ってくる夜のシーン、輪郭の弱い線から光の流れ方から、なにもかもぜんぶが素晴らしかった。

内容は……ちょっと私には合わなかったね…なかでもポレットが愛せなかった。父親が亡くなったのはリンダが1歳くらいのときでいまが8歳だから7年くらいずっと冷凍食品…それはまあぜんぜんいい(入場特典でもらったカードにパプリカ・チキンのレシピが書かれていたが本当に簡単でびっくりしてしまった)、立ち上がれなかった夫の死を、夫の得意料理でもって克服するという構図もわかる。でも見てた印象としては大人というよりも子ども、なんならリンダの方が大人に見える瞬間もあって、どうにもハマらなかった。頼むから姉にすべてを押し付けないでくれ〜〜。おそらくコメディシーンにあたるであろう姉が出てる場面はぜんぶつらかった。嫌なやつ!という描かれてるけど(名前間違いはマジで嫌なやつだったが)基本的にずっと真摯に生きてるし、それでいて妹の無茶なお願いや頼みを聞いてるじゃん…なんでこんなことに……甘いものをお腹いっぱい食べたいと思って、でも自制する気持ちもちゃんとあるからって大切に貯めてるお菓子を子どもたちにズババと配るところ本当に泣きそうだった。その理由が妹が人様の養鶏場からパクってきたニワトリを返すためなんて……子どもの描き方もイキイキしていいな〜と思ってるけどあの場面だけはべつ。揺らすなガキども

ぜんぶの前提をひっくり返すけどたぶん実写作品だったらここまで合わないな!みたいな感じになることはなかっただろうと思っていて、それはやっぱり生身の人間が演じてるから人物の愛嬌や奥行きやキャラクターとしての説得力が肉感として出てくるからで、戯画化されて描きたいことだけを表現するアニメーションのなかでは私自身がキャラクター性のコードを読み取る力が備わってないからだった。フランスや現実問題の描き方も鋭かったのでもっともっと好きになれたら…よかったね……
鹿伏

鹿伏