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リンダはチキンがたべたい!のkeeeeetのレビュー・感想・評価

4.0
2024
32/100

心を掴まれたのはこのキービジュアル。
「子供が大事なものを抱き抱えている」
そんな絵面に弱いので観終わったあとポスターで普通に泣きそうになった。このリンダの表情が良い。絶対にコイツを殺して食うんだという並々ならぬ意志を感じる。
大人にとっては些末なことでも子供にとっては譲れない重要なことだったりする。リンダのそれはパプリカチキン。ママンが料理下手だろうが街中がストで鶏肉が買えなかろうが、大人の事情は関係ない。約束したからには“今日食べたい”これが譲れないものなのだ。取るに足らないワガママだろうと子供のこういった心を突っぱねるのか、尊重するのか、諭すのか、叱るのか、そのときの親の選択が子供の人格形成や後々の人生に影響を与える可能性は大いにある。ポレットは全く出来た母親ではない。だけど娘との約束を破らない(法律は破りまくっているけど…)その一点は決してブレない。ここを好意的に見るのか道徳的にアウトとするのかは観客次第。自分はギリ好意的に見た。アーティスティックでキュートなビジュアルに免じて「騙されてあげた」「譲歩した」が正しいかもしれない。そこさえクリアすれば後は楽しい。反対に許せないともう本作は最悪だろう。だって登場人物大半の倫理観がイカれているのだから。不快、苛つく、納得出来ない、それはごもっともだ。自分もいい話だとは思ってない。いい話じゃないけどそこに愛がある。だから厄介で小癪な、不覚にも心に残る物語になっている。

アニメーションのセンス・技術は、めっちゃいいなぁと思う場面ばかり。ラフな描線にシンプルでポップな色遣い。あらゆるものの表現が極限まで省略されている。これをリアルに描いたらあの団地はもっと小汚くて乱雑だろうし人間の肌の色も白いか黒いか分けられる。
感動したのは夜間を走る車から見た外の景色。通り過ぎていく光の揺らぎとスピード感がビビるくらい上手い。
暗闇は黒色をバックに人物の輪郭だけ残るが、目👀だけはパチっと浮かびあがるのが古典的なアニメ表現を用いてて可愛かったりする。

後から知って驚いたのは絵に合わせて音声を付けるアフレコではなく、セリフを先に録音して音声に合わせて作画をするという制作方法。かつ実写映画で活躍する俳優を起用して、実際のロケーションに合わせた場所で録音しているという。実写的なリアリティを突き詰めるとその手法が的確かもしれないが、それに対しデフォルメの極地のような絵を融合させるのはかなり冒険的だ。

メインの親子はこの親にしてこの子ありって感じ。玄関で靴を投げ捨てるところとか、結局親のダメなところばっかり似るのは万国共通か。
ただポレットには夫の死から立ち直り切っていない背景があり、急死したのはリンダが1歳のとき。リンダからしてみれば「僅かにある記憶だからこそ忘れたくない」。夕食後、珈琲も飲めずキスも出来ずポックリ逝ってしまったように、どんな人間も明日生きている保証はない。それを分かっているからこそ約束は今日でなければならない。それがリンダにとって譲れない大事なものであり、ポレットもその感覚を共有している。「リンダはチキンがたべたい!」と同じくらい「ポレットはリンダにチキンを食べさせてあげたい!」だろう。子供の大切なワガママに親は同じ熱量で応えることが出来るかどうか、そんなところに愛は試される。

今作屈指の不憫キャラである伯母のアストリッドと警察官の彼絡みのシーンは大体好き。
・トラックを追いかけるチャリの警官のところはもはやマッドマックス。
・地下室に閉じ込めた→リンダを!?→君の姉だよ→ありがとう。というイカレやりとり。
・最終的に裸にさせられる警官。謎の乳首毛。
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