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かぞくのmoonのレビュー・感想・評価

かぞく(2023年製作の映画)
3.5
原作未読、ヒューマントラストシネマ渋谷にて、初日(11月3日)に昼夜2回鑑賞。
《11/24より、amazonプライムにて配信》

事前にレビュー(東京国際映画祭でご覧になられた方々の評価)の点数のみチラっと見たが、…なるほど…と頷ける気がした。


「起」がない物語だった。

男性 主人公四人 それぞれの背景描写「起」が、尽く希薄。
突然「転」や「承」から始まってる?感じ。マコトのエピは「結」から?
主役である筈の四人の台詞も かなり少ない。4人の回数合わせて10回(笑)程度しか無いのでは?
代わりに 脇役の友人、知人、母、妻、子、隣人達が 主人公の立場や背景を匂わしてはいる?…が、原作もそうなのだろうか?
一度目は こちらがどう想像力をもってしても 主人公達の立場を理解したり、共感するのが困難だった。

しかし…不思議と「つまらない」とか「面白くない」とかではなくて「嫌いではない」(好きとは決して言えないが)…という鑑賞直後の感想だった。

監督の澤寛という方、「るろうに剣心」や「銀魂」などの衣装デザインを手掛けた経歴をお持ちだとか…
そこからの初監督作品。映画撮影されたのが19年…4年も経てから(編集の都合?)の突然の公開。そして東京国際映画祭への参加。何もかも異色、異例?
監督ご自身の家族への思い…など 知った(公式サイト)上での鑑賞は ある程度、いや、かなり理解困難だろうとは覚悟していたが…想像通りだった。監督が何を描き、何を伝えたいのか…全く解らなかった。

でも、初回の鑑賞後、一緒に観た息子と かなりの時間 この作品について考察し合った、語り合う気になる…映画ではあった。

良い点もあった。

先ず、役者達の演技は素晴らしかった。
名の有る役者達が脇役または短時間で登場するが、澤監督の人脈?ゆえだろうか? 凄い。
ところ所 ハッとする 綺麗な映像シーンが有り、監督の美意識が感じられた。
マコトが佇む橋の赤と背景の緑、冒頭の白い砂浜、ユウイチが歩く森、タケオの子どもが見るひまわり畑、ラストシーンの陽に輝く波に浮かぶ赤いボールなど…
映像のカットも視点が斬新で美しい点も。

そして、音楽。映画の導入部(予告編にも)に流れるメロディーは不安なようで、温かみも感じる不思議な旋律…
魅力的だった。

でも、物語はスムーズでなく、原作ではどう描かれているのかが気になった。
作品の解説ではいつくかの原作を元に描いているとのことだったが、それなのに83分という時間で4人が主役になる物語を描くのは、やはり、無理だったのでは?


《この先ネタバレ⚠️注意》





かぞく…「家族?」と呟く男性の声
あれは…疑問符なのか、嘆きなのか

最初、4人がいつかの時点で繋がる?のでは?と思わせる、少しづつエピソードを順々に描いて回して一つに繋げて行く(今ドラマでONE DAYがそう)のだと思ったが、違った。唯一、繋がる?のはマコトの借金取りが、ケンジが通うスナック?のママの元ダンナだったというだけで、何の意味も無かった。(有る?)
バラバラな4人のエピソードから、監督が描きたかった「かぞく」とは何?を二回目観ながら、考えたが…


一番、背景を含め理解出来そうな気がしたのは、小栗旬さん演じるタケオかもしれない。これも、妻が居た多分幸せな頃の雰囲気を何一つ描くことなく(隣人により少しだけ背景が解る)つまり「起」が無く、突然「承」から始まる。タケオは多分、無理心中するつもりでドライブに出掛けたが…海に着いて、子どもの寂しげな後ろ姿に心中は思い留まり、置き去りに…しかし、死ぬ気で危ない運転をしたものの、トラックと正面衝突しかけ、ハッと目覚める。「自分はまだ死にたくないのだ…生きたいのだ。子ども達と一緒に…」と思い直し、子どもを迎えに行く…

このエピソードで印象的なのは「黄色の蝶」
ドライブの途中から車に入り込んで、ずっと一緒に居る。そして、事故になりそうな時、目の前を突然塞いで…あれは、死に誘ったのか?または、助けたのか?…私としては、蝶は愛する妻の化身であって…タケオを目覚めさせた…と思う。

ほとんど台詞らしいものは無く、ただ只、焦燥と虚しさとを息遣いと目で演じる小栗旬さんの演技が凄い。
本当は子ども思いの父であると思わせたラストシーンも良かった。
そして、女の子、何処かで見た?と思ったら「なつぞら」で なつの幼少期を演じた子(粟野咲莉(あわのさり)さん)だった!!そういえば、なつぞらの後半になつの妹の子(千夏)として登場した時、髪が長い少女だった!…19年ということは、同じ頃に撮影されたのだな…(そういう事では吉沢亮さんも同じく)



永瀬正敏さん演じるケンジが、最も長い台詞を語ってた。内縁の妻?の嘆きや苦しみからも とんでもないダメ男だと解るが、何故、彼女がこれ程ケンジに惹かれて(いわゆるダメンズ?)いるのかが、ケンジのダメながら惹かれるポイント「起」が描かれない為に、全く感情移入出来なかった。スナックのシーンでの不幸なニュースを聞いてるところで、もしや、ケンジが関係してる?と思いきや、無関係。ママと元ダンナのエピも要る?無駄に長くて…何だったの??だった。そして、一番残念だったのは、ケンジが「半年後に○○を買おう(飼おう?)ちゃんと大切にする」という台詞。○○を2度目聞き取ろうと頑張ったが、解らなかった事。その台詞で抱きしめられた彼女が更に嘆くのだから、物凄く重要な台詞だったはず!そこに、彼女の気持ちの行方も有りそうなのに…どなたか教えてください🙇‍♀️。あらすじを読むと”彼女はある秘密を抱えていた”と あるが、それが何かさっぱり解らなかった。

永瀬さんは本当に色々な役が出来る役者で魅力的だが、ケンジ役は役不足。勿体ない。
このエピソードからは、何を感じ取れば良いのだろう?
《追記…コメント欄にて うめもどきさんの解説が、とても参考になりました 11/10》


阿部慎之助さん演じるユウイチ…スーツで都会を颯爽と歩いていたかと思ったら、地方の実家に行く…ユウイチがどんな立場の人間かの「起」が無く、唐突に「承」が来る。秋吉久美子さん演じる母の台詞から、ユウイチが突然来たのが解るが…ユウイチの台詞も極端に少ない。祖母の事も何故か認識が薄い…ユウイチ
途中に妻とのやり取りが「起」らしい?がそれも何故、あのような関係なのかもこちらの想像任せだ。
つまりは、何かに挫折し?妻とも関係が悪いことを悩むユウイチを 今は亡き、祖母が励ました…という話だったが、祖母がユウイチを森の奥へと誘導して行くシチュエーション(長い)は要るのか?不思議な儀式?は何なのか?このエピソードだけ、ファンタジー?要素が強く…違和感あった。

でも、祖母の言わんとする事は共感出来る。そして、母の息子を想う気持ちも。
失礼ながら…このエピソードは 監督御自身が憧れた家族像なのではないだろうか…



そして、最も難解だったのが、マコトのエピソードだった。
最初のシーン、いきなり、いわゆる良い学校に通う子のような服装(後からお葬式の直後かもしれないと思った)をした男の子が、車?のハンドルを持って砂浜を駆けて行く…彼は憔悴している。そして、事故現場に駆け寄るその子が映し出され、ある光景を思い出す…それは、在りし日の父?とのドライブの記憶…その父の口元辺りしか見えないが…吉沢さん…つまりマコトの顔だと私はすぐにわかった…え? どういう事?あの子どもはマコトの幼少期?で、父とマコトは似てた?のかと一瞬思ったけど…

次に突然、火葬場の光景が…そして、それを無言のまま、涙を浮かべ、見守るマコトの姿が…。え?いきなりこれは「転」か?「結」か?何だっ?
何か言葉を飲み込んで、必死に耐えている(表情と喉の動きでその辺が表されていて…凄いと思った)

マコトも ほとんど話さない。
友人の言葉で父が行方不明だと分かる…じゃ、あの子は?誰?マコトだと思ったけど…別人??
街の中華店…マコト一家をよく知ってる雰囲気だが…母を心配する女将さんの「この街のみんなは家族みたいなものだから…」という言葉に驚くような?疑うような…?あの目つき…何だろう…?何を思ってる?(目の表情が何ともいえず良い!)
友人の母からも女将さんからも餞別のようなものを渡され…感謝する様でもなく…何が彼をそうさせている?
その後、父は元寿司屋で多額の借金取りに追われ失踪した?ようだと解る…

原作では、どう表現されているのだろう?または、台本ではマコトの背景はちゃんと説明されているはずだ…でなければ、マコトの心情は演じられないだろう…観る方も同じだ。マコトの心情を伺いしれない!共感出来ない…
マコトの母についてもだ。母とのギクシャクした関係…それは元々なのか?父の事でそうなったのか?母の体調もだ。
父の借金と失踪は 高校生のマコトが背負うには大き過ぎる現実だとは解る…けど。
借金の理由は?単に店が上手くいかなかったから?

夜逃げする途中、借金取りが現れ「父親が死んだ」と知らされる。それは何を意味する?保険金を掛けられ殺された?冒頭の火葬された遺体は…父親?と一瞬思ったが…
借金が無くなった?後も…母と息子の関係は相変わらずだ…詫びる母に「もう大丈夫」と息子。でも…

再び 登場する火葬シーン…
あの火葬は母?だったって事?ガス自殺しようとしたが、ガスも止められ…?それとも病死?…

全ての疑問符に観てる側(私)には明確なヒントは与えられない。それは、映画の中の描写から、推測してくれ…と言わんばかり。でも、その推測が果たして正しい?のかも、知ることが出来ない程、背景描写が希薄…不足。

マコトのあの表情は…両親に対する嘆き、または哀れみ?自身への悔しさ?

その後 遺灰を海?に最初は少し手に取りササーと落とし、次には愛おしそうに丁寧に撒き、そして…最後は、虚空を虚無に見つめ…一気に捨てた(…ように思えた)
この3回の遺灰の扱い方に…マコトの気持ちが…表されていたのか…?
《後日 追記》最後は、母「家族と過去」との訣別と自立(旅立ち)を意味するのだろう。

あのカットはポスターにも使われていて…下からのアングルが印象的だった。

「かぞく…」と呟く声。冒頭とラストに二回登場する。どちらもマコトの声だ。
あれは…決して、肯定的な響きではなかった。そして、2度も同じ火葬シーンが登場するのと最初と最後がマコトのエピで描かれるという点から見て、監督が一番 描きたかったのはマコトなんでは?と思った。

そして…また 冒頭の少年が登場し、おそらく父?の形見?であろうハンドルを見つめ、思い浮かべる…在りし日の父とのドライブ…見上げた先に居たのは、マコト!?
穏やかで優しい笑顔…息子を心から慈しんでいる表情…

しかし!!え?! 死んだのは、やはりマコト!?なの?

少年は友人達に呼ばれ…ハンドルを砂浜に残し、駆けて行く…
やがて、海の情景と共に、明るい少年達のはしゃぐ声が響き…赤いボールが波にさらわれ…煌めく波間で揺られながら…強い波によって浜辺に打ち上げられ…終わる。
このラストシーンは、何か希望を感じられ、好きだ。<このラストシーンについてはコメント欄に追記 11/16>

えー!!?でも、何が言いたかったの?

である。

両親を悲惨な死で失ったマコト…は、人間不信になっても無理は無い。だから、いつ 息子の母となる女性に出会ったのだろう?もし、本当に あの子がマコトの息子なら…マコトの人生は 余りに切ない…原作もそう描いているのだろうか?

わずか83分間。

いっそ、マコト一人に絞って、背景を しっかり描き、過酷な運命に抗って、自分の家族を持つまでの過程を描いた方が、家族というものを深くじっくり描けたのではないだろうか。
でも…そんな単純なモノではないのだろう…



観てからレビューをどう書けば良いか、中々纏まらず
こんなに遅くなってしまった。まだ、書き落としている事があるような気がする…
また、追記するかもしれません。


◈◈ 追記(11/10 )◈◈
私の数々の疑問について うめむすびさんが、とても丁寧に考察してくださっています。是非、コメント欄をお読みください。




[以下 公開以前に書いたレビューです]


昨日 突然に舞い込んだ 報せ。
正直、嬉しいより、戸惑いが大きかった。
新作の公開情報が、1ヶ月と10日?前に突然 届くなんて!!
そんな作品を撮っていたなんて 全く、知らないでいた💦

一体 何??慌てて調べたら、なんと!主演は4人‼️
吉沢亮さん、永瀬正敏さん、小栗旬さん、阿部進之介さん。だそうだ。
出演表記は映画に登場する順だとか。

原作も原作者(土田世紀さん)も全く知らない。
「家族」をテーマにしたオムニバス短編らしい。その中から5編をチョイスして、監督が描きたい(訴えたい?)家族の問題?あれこれが描かれる模様…

監督のコメントを読むと…かなりクールで鬱屈とした家族観が伺える…
果たして…誰の為の映画なのか…
理解出来るのだろうか…

なのに、そこに吉沢亮さんや小栗旬さんなどのメジャーな役者を持って来てる…いぶし銀な役者も揃えている…
という事は?沢山の方々に観て欲しい作品なのだろう。
でも、今 現在 公開されると分かっているのは東京の映画館 2館しかない。これから全国展開されるのだろうか?

しかも、この映画が撮影されたのは「キングダム1」が公開された2019年だという。20年にも残りを撮って、その後、ずっと編集作業?…およそ3年も掛けての公開作品なのだ。しかも 監督が「るろうに剣心」などの衣装デザインを担当した方で、今回 が初の監督作品と知ったので、正直、観るのが怖い…

でも、
このプロデューサーが「キングダム」シリーズを手掛けた松橋真三さんだと知り、ちょっと安心した…少しね😅

かなり重そうでシンドそう💦な内容なのだが…吉沢亮さんの演技は そういう中で光る‼️
…東京でしか観られなくても、出掛けて行こうと思う。



◈米田道路さんコメントありがとうございました◈
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