なべ

インファナル・アフェア 4Kのなべのレビュー・感想・評価

インファナル・アフェア 4K(2002年製作の映画)
5.0
 平成生まれの友人がインファナル・アフェアやってるけど…というので、食い気味に行こう!と応えた。
 20年前に観たときはこんなに綺麗だったかな。それくらい4Kリマスターの恩恵は大きくて、観客の解像度も随分上がったのではないだろうか。音も格段に良くなってたし。
 ハリウッドでも日本でもリメイクされたから、そっちの方で知ってる人も多いかもしれないけど、やはりオリジナルがいい!
 終わってからもラウに対する憤りが止まらない友人を見るにつけ、観客を引き込む巧さに舌を巻いた。IIIの終獄無間でラウが疑心暗鬼と後悔に苛まれて自己崩壊していくことを教えたら、「でしょうね!」と三作目への意欲を見せてたよ。

 知らない人のためにざっくりいうと、警察とヤクザ双方から相手方に味方を潜入させ、本来知り得ない高度な情報を得るというクライムサスペンスもの。ね、もう聞くからにおもしろそうでしょ。
 
 観る前に若い友人にひとつ助言をしたのだが、それは若かりし頃のアンディ・ラウとトニー・レオンを演じる役者が同じに見えるってこと。どちらもアンディ・ラウの若い頃っぽいのだ。これからみる人はそこんところを注意して。若きトニー・レオンはタレ目の役者を起用すべきだった。特徴が合致しないイケメンを使うもんだから。別に混同しても大丈夫なんだけど、若い2人がニアミスするところで、ん、これどっち?と混乱すると興が削がれるからさ。

 しかし、まあ、よくできた映画だこと。敵味方公平に振り分けられたスリルの相乗効果もさることながら、長引く潜入捜査で神経をすり減らせていくヤンと、警察内で出世していくにつれ、善人になろうとするラウの対比が素晴らしい。脚本の構造的なおもしろさと、そのおもしろさを演じる役者の存在感に痺れるのだ。拮抗し、切磋琢磨する熱というかライバル感というか、2人の相性がすごくよくて。BLの二次創作は絶対作られてるだろうな。そう確信できるほどの極上のカップリングよ。

 事前に上映時間はどれくらい?と友人に聞かれたときは、うーん、130分くらいだったかなと答えたのだが、実際はまさかの102分。
 観終わった直後、友人が「これは確かに130分だわ!」と情報量に対する体感時間に同意してくれて嬉しくなった。
 130分の情報量をいかにして102分にまとめ上げたのか。その秘密は物語の端折り方にある。
 一例を挙げると、最初のオーディオ店のシークエンス。この印象的な場面がどれほどのシーンの省略を可能にしているか。
 例えばヤンはどうやってラウの住所を突き止めたのか、またどうやって家の中に入れたのか、自分が来たことをどうラウに気付かせるかなど、撮影すればそれなりの尺を取るはずであろう手間と暇を省き、なおかつ、鑑賞者に最小限のひらめきで納得させるヒントとなっているのがにくい。いやあ、なんと気持ちのいい気づきだろう。
 調整されたオーディオから「被遺忘的時光」(メロディがちょっとブラジルに似ている)が流れることで、いろんなことが瞬時にわかる。と同時に、2人が最初に出会ったオーディオ店での至福のひと時に記憶がジャンプする仕掛けの見事なこと。おまけに妻にヤンへの疑惑というか嫌悪というか、そういうネガティブな感情を抱かせる強烈な復讐付き。
 逃げ切った!と歓喜するヤンにこれから始まる疑心暗鬼に満ちた日々の始まりを告げる呪い。見事だ。見事すぎる。ここ、静かなシーンなのに、絶頂からの奈落への高低差が激しくてクラクラする。曲の効果も相まって、あまりに素晴らしくて泣けてくるのよね。
 そういう頭のいい省略がこの映画の真髄なのね。各国でリメイクしたがる気持ちもわかる。
 なんでもセリフで説明する最近の映画に慣れ切った人にはこの超絶技巧はわかりにくいかもしれないから、映画慣れした上級者はそうしたビギナーにぜひ教えてあげてね!
なべ

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