カカポ

99%、いつも曇りのカカポのレビュー・感想・評価

99%、いつも曇り(2023年製作の映画)
4.5
女性と妊娠(特に産まないこと)に関して描いた映画はなるべくチェックするようにしてるんだけど、今作すごく良かった…!!テーマも勿論だけど、監督が50歳にして初長編に挑まれた女性であることや、中年女性が主人公の作品であることも気になったポイントの一つ。こういう作品を求めてたし、ほんとにオススメです。

今作では主人公・一葉と夫の大地の夫婦生活を通して「発達障害当事者の妊娠出産」といったテーマが描かれる。言葉としては聞き馴染みがあっても、いまだ理解が浸透していないせいで"生きづらさ"ばかりが注目されやすい発達障害。しかし、本作ではASD当事者である監督の目線が常に物語に同居していることで、切実さはありながらも重くなりすぎず、当事者が体験する日常のあれこれをユーモラスに描いており、その辺のバランス感覚が絶妙だった。

なにより本作はですね、キャラがとても良いんですよ!ままならない自分に振り回されながらも「良くありたい」と一生懸命行動する一葉。彼女がいちいち間違った言葉を訂正したり、助けてくれた人にたくさん「ありがとう」と言ったり、分からないことを尋ねたり、全力で走ったりするのは、自分や他人が良く生きていけるように選んでいる行動だし、だからこそ彼女愛おしくてたまらなかった。一生懸命な人って側から見るとちょっと滑稽に見えることがあるけど、だからなんだってんだよね。一生懸命なのって、何もしないよりずっとずっと最高だよ。本当にさ!!
(舞台挨拶で監督が登壇されてたんですが、演じられていた一葉そのまんまで本当にビックリした。話ぶんまわしててMC力が高すぎる笑)

さらに、今作のキャッチコピーにもなっている「一葉ちゃんはもう子供は作らないの?」という問いに対する本作の答えが本当に素晴らしいのよ。
子供を作るなんてことは、そもそもが重労働だしセンシティブな話題なんですが、それに加えて一葉には年齢の壁やASDなど悩みが尽きない。この歳で子供を作れるのか否か。作れたとしてもASDという特性が子供に遺伝するのではないか。自分のように苦労するのだとしたら子供は生まれてこない方がいいのではないか………などなど。過去に流産の経験もある一葉は悩み、夫の大地とぶつかりながら子供を持つ未来について話し合う。

最終的に彼らはボロボロになりながら互いに本音をぶつけ合うことになるんですが、そこで出た答えが「発達障害当事者が子供に遺伝することを怖がること」を否定せず、同時に「子供は(自分は)生まれてこない方が良かった」という言葉については真っ向から否定してくれたことに私はとても救われた。

発達障害当事者が子供への遺伝を恐れるのは、他でもない自分が生活の中で苦しんできた事実があるからであり、私たちはこの映画の中で一葉が経験する苦しみを共に経験することになる。彼女が抱く恐怖を否定しまうことは、一葉自身の人生をなかったことにしてしまうのだ。
でも、だからと言って、「発達障害だから生まれてこない方がよかった」という一葉の発言は絶対に違うし、障害のあるなしによらず人の命はみな暖かく尊いものとしてこの世界に迎えられるべきである。このふたつは相反することなく一つの答えとして共存し、選び取ることができるんだ。

この映画には一葉と大地のほかにも様々な理由で子供を持たない人が出てくる。
彼らが、障害、ジェンダー、セクシュアリティなど様々な事情で「子供を持たない」という選択をしたとしても、それは「=子供を愛していない」ではないし、社会の一員として、ひとりの大人として、子供たちを愛することはできる。大事なのは自分なりのやり方で子供たちに関わり守り育てることで、それは一皿のカレーからでも始められる。必要としている人に愛と安心をシェアすることは、子供の有無で決まることじゃないんだ。

子供を持たないからといって冷酷なわけではない、母体としての機能を拒んだからといって子供を愛したくないわけではない。私の大好きな傑作「セイント・フランシス」でも描かれたこの大事なメッセージを伝えてくれる作品が日本でも生まれたこと、しかも主人公が中年の女性で描かれたことに、私は最高の未来を感じずにはいられないよ!!
カカポ

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