ビンさん

99%、いつも曇りのビンさんのレビュー・感想・評価

99%、いつも曇り(2023年製作の映画)
4.0
ヒロインの一葉(瑚海みどり)は40代後半。
夫の大地(二階堂智)は50歳。
二人の間には子供はいない。
物語は一葉の母の一周忌法要から始まる。
一葉の弟夫婦(曽我部洋士・亀田祥子)には幼い息子啓太がいる。
無邪気に遊び回る啓太を見つめる大地。
デリカシーのない叔父(塾一久)は、一葉にもう子供は作らないのか、と明け透けに言う。
じつは一葉は発達障害グレーゾーンである。
日々の生活の中でしばしばトラブルを起こすこともあるが、夫の大地はすべて受け入れていたのだった。
物語の後半で描かれるが、一葉は一度妊娠したが、流産した経験がある。
それもあって、叔父の言葉にキレてしまう一葉だった。

映画は一葉の日常と、それを受け入れる大地の姿を描いていく。
アスペルガー症候群、いまは発達障害グレーゾーンと表現するのか、そのあたりの棲み分けはいまひとつ理解できていないが、とにかく、こういう方って多いよね、というのは僕の実感だ。
詳しいことは省くが、僕の日常でもおそらくそうなんじゃないかな、という人がいる。

社会生活の中で、そういう人がいると、正直なところ、わ!面倒やなぁ、と思ってしまう。
本作における一葉というキャラも、実際に近くにいたら面倒くさい人やなぁ、と思ってしまうだろう。

でも、本作では特に一葉の夫の大地の対応が、とにかく凄いなと感じた。
一葉が起こす日々の細かなトラブルに対し、逐一文句を言うでなく、笑顔でそれを受け入れるのだ。
そんな大地も、仕事の壁にぶち当たり、家に帰っても夕食の準備もなく(日中の出来事で感情が抑制できない一葉は、挙げ句に体調不良で寝込んでいたりする)、仕事の愚痴の一つも言いたいところをぐっと圧し殺す大地なのだ。

僕は男なので、どうしても大地に感情移入してしまう(僕は独身だけど)が、如何に彼が一葉のことを愛しているかが伺える。
しかし、そんな大地もとうとう我慢の限界に達する出来事が起こる。

一葉を演じる瑚海みどりさんは、本作の監督・脚本・編集もこなしてらっしゃる。
いまから4年前、第七藝術劇場で『河童の女』が上映された際、出演者だった瑚海さんも舞台挨拶に登壇され、個人的にもお話させていただいた思い出がある。

その直後から映画の勉強をされ、短編をいくつか撮られた後、長編初監督として本作を撮られたのだった。
田辺・弁慶映画祭では5つの賞を獲得、ということで、4年振りにお逢いできるということで、本作の大阪での公開と舞台挨拶を楽しみにしていたが、これほどまでに力作を撮られたとは正直驚いた。

最初は一葉の行動が、ともすればユーモラスに見えて、本作のカラーはちょっとしたコメディなのかな、と思って観ていたが、一葉が抱える発達障害であることの後ろめたさや、受け入れてくれる大地に素直になれないところ等々、細かな人物描写がもたらすシリアスさに、あ、これは笑ってたらあかん映画やな、笑い事では済まない映画やな、と。

とうとう大地が感情を爆発させた後に、二人が食べる麻婆豆腐は、日本映画史上もっとも美味しくない食事シーンだ。
その後、大地も体調不良を起こしてしまうのだが、そんな彼を気遣う同僚樹里(永楠あゆ美)もいて、よくあるのはここで大地が樹里に心を移していく、という展開になりそうだが・・・そこは実際に映画をご覧いただきたい。

映画は、もうこのままだと一葉と大地の夫婦関係は最悪の結果に発展してしまう、という展開になるが、果たして二人はどういう答えを出すのか。
それも、是非映画を観て、この夫婦が出した答えをしっかり受け取っていただきたい。

発達障害であろうとなかろうと、何かと生き辛い昨今、さらにそういった症状を持っているとなると、より困難なことだろう。
それを理解するという意味でも、本作は大きな存在意義を持ち、できるべくしてできた、現代社会において必要不可欠な作品であると実感した。

上映後の舞台挨拶では瑚海みどりさんと、弟の嫁を演じた亀田祥子さんが登
壇。
瑚海みどりさんは、本作を作るきっかけ、現代社会での教育への疑問等々、熱く熱く語っておられて、逐一共感できる内容であり、聴き入ってしまった。

また亀田さんは、何気ない会話の中でも、発達障害の方を追い込んでしまっている言動をしているかもしれない、という日常の人間関係の中での難しさを思いつつ、ヒロインを怒らせてしまう役柄を演じたとのことで、こちらも至極納得するお話だった。

瑚海みどりさんは、4年前にナナゲイに来たことについても語っておられて、そこで自分は映画を撮って戻ってきます、と確かにおっしゃていた。
それが想像以上に素晴らしい仕上がりだったことに大満足である。

99%は曇りで、残りの1%は晴れか雨か。
じつに意味深で素晴らしいタイトルだ。
ビンさん

ビンさん