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白鳥のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

白鳥(2023年製作の映画)
5.0
【ウェス・アンダーソンはカットを割らずにカットを割る】
動画版▼
https://m.youtube.com/watch?v=ag8TSpOxnwg

先日、アンスティチュ・フランセにカイエ・デュ・シネマ2023年ベスト号を読みに行った。てっきり『アステロイド・シティ』がベストに入ると思ったら落選していて何故だろうと思っていたら、Netflixで配信された短編『白鳥』と評が分かれていたためだったようだ。ザッと選者のリストを読んで行ったのだが、若干『白鳥』の方に軍配が挙がっているように思えた。そこで実際に観てみたのだが、なるほど確かに評が分かれるのも納得であった。『アステロイド・シティ』の場合、「窓」というフレームを用いて当事者/傍観者の関係性を複雑に描いていた。対して『白鳥』は、ウェス・アンダーソンの集大成ともいえるテクニックの作品に仕上がっていた。

集中線を中央に取った細長い通路を突き進んでいく、右から左から人が出たり入ったりする。どれだけ移動しても絵画的構図が崩れず、正面を向いて解説する者、奥で2人交わる構図がバキッと決まる。その快感がひたすら駆け抜けていく。ウェス・アンダーソンは長編デビュー作『アンソニーのハッピー・モーテル』の時から、カットを割ることを忌避するような癖があり、本作では人力によるシームレスなカットを提示する。具体的に語ると、眼差しを向ける、その先に白鳥がいるといった構図。通常であればカットを割り、ふたつの視点を提示するのだが、横移動で次のカットを見せていくのである。白鳥を魅せるときは、凝視を強調すべく双眼鏡のようなレイヤーを敷き、そこで白鳥を動かすのである。

そして何よりも素晴らしいのは列車の通過を列車を見せずに描く場面だ。男が線路に横たわる。線路の先に眼差しを向ける。そこには何もない。反対側を移し、男は正方形の紙をパラパラ提示する。列車の到着を絵で表現するのだ。かと思うと、今度は真横から男を撮る。突然、背景の稲穂が斜めとなり、それでもって列車の通過を描くのである。ウェス・アンダーソンは饒舌情報過多の監督でありながら、明確に「見せない演出」をすることがある。『アンソニーのハッピー・モーテル』におけるピンボールのゲーム画面を見せないといったように。

今回のロアルド・ダール短編集では、映画的と演劇的の中道を模索したトリッキーな演出が冴え渡っていた。それだけに次回の長編映画が楽しみである。
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