dm10forever

毒のdm10foreverのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.0
【夢占い】

ウェス・アンダーソン短編シリーズ(4本)、やっとクリアしました。
これも「ウェス・マラソン」って言う?・・・言わない、あっそ(笑)。
じゃ、まぁ「ウェス推し活週間」って感じかな。

ってところで。
昨日レビューを上げました「ネズミ捕りの男」が若干難解に感じてしまった分、こっちは何となく見やすく感じられました。
って言うか、実はやってること自体はそんなに違わないんだけどね。
「つまるところは・・・」っていう。
ただ、ちょっとずつ僕の頭の中の「映画脳」も勘を取り戻しつつあるので、リハビリがてらには最適な作品だったかも。

この作品自体はとっても「サスペンス調」のお話なんだけど、やっぱりここでも余すことなく発揮されるウェス節のお陰で「手に汗握るハラハラの展開」すらも、どこかオフビートでコミカルなテンポに変えてしまう。

で、お話が進むにつれて色々と感じる部分も出てきて、それは決して17分という短尺ではごまかすことなく「きちんと作り込まれた作品」として提供されているな~っていう感心でもありました。

というのも、いきなり「腹の上に毒蛇が!」っていう設定自体が突飛だし、それを巡る騒動の顛末を見ていると、このお話の構成自体が「もしかしてこれってウッズ(デヴ・パデル)の「夢オチ」もしくは「戦争の記憶のメタファー」を描いたものなのかな・・・」って気がしてきたんですね。

そもそも、劇中では「ヘビ」については最後までその姿が明らかにはならないし、なんなら本当にいたのかも定かではない。
みんな「アマガサヘビ」と種類まで限定して話をしているにもかかわらずね。

そこで、この「見えないけどそこにいる体」っていう描き方が、もしかすると彼に付きまとう恐怖や概念を「ヘビ」に置き換えて、彼を追い詰める存在であることのメタファーとして描いたのかな・・・って思ったんですね。
それを「ハリー・ポープ(ベネディクト・カンバーバッチ)にまとわりつくヘビ」っていう客観的な視点で描かれているのかな・・・と。

というのも、この物語を見進めていく中でちょこちょこっと挟まってくる小物やエピソードからは「戦争」というものが切り離せないような意味が見え隠れしていました。

冒頭でウッズが家に帰ってくるシーン。
彼が乗っているのは軍のジープだし、彼が着ているのも軍の制服。
ハリーとの最初の会話で思い出すのは戦場で腹を撃たれて死んだ空軍飛行士のG・バーリングのことで、そのウッズの額には日常生活ではなかなかできないであろう大きな傷跡が残っている。

またウッズが着ている制服の胸のワッペンに書かれた文字や、ガンデルバイ医師(ベン・キングスレー)が行き来した道に掲げられた看板には「英国用ジュート」と書かれていたことからも、このお話の舞台がイギリスによって占領下にあったインドであることがわかる。

つまりこれは「イギリスによって占領されたインドが舞台」というキナ臭い背景を孕んだ作品ということ。

そしてここでキーとなる「アマガサヘビ」という存在。
これはインドを含む中央~西アジアに広く生息する、猛毒を持つ「毒蛇」の一種。
その毒はかなり強烈で現地のヘビ取り名人ですら手を出したがらないらしい、そんなヘビ。
見た目はそれほど大きくはなく、少しの隙間でもあればどこからでも忍び寄ってくる。
つまり、常に「いつどこから来るかわからない恐怖」の対象でもあるんですね。

これを当時の状況で考えると、イギリスの統治(占領)に対してインド人の不満や怒りがすでに目盛一杯まで溜まっていて、それがいつ溢れ出してもおかしくない状況であるということを現地の軍人たちも肌感覚で認識していたのではないだろうか・・・って感じたんですね。
(この辺は先日大ヒットした「R.R.R」で馴染み深いところでもありますよね)

だからこそ、緊張感が漂う任務中ではなく、自分にとってのセーフティーゾーンであるはずの「自宅のベッドの上」にまでその恐怖が迫っているという極限の不安感を表していたんじゃないのかな・・・と。

そして、結果的に「アマガサヘビ(という脅威)」はその実像を見せないままいなくなってしまう。
その間、懸命にハリーを救おうとしてくれたガンデルバイ医師が言った「夢を見たのかもしれない」という言葉にハッとなり激高するハリーは「目に見えない恐怖に怯えていた自分の内面を見透かされた」かのように感じ、咄嗟にそれを怒りで覆い隠そうとていたのかもしれない。

それはガンデルバイ医師とその向こうにいる全てのインド人に対して。
「イギリス人がインド人を恐れるはずがない」と。


そういえば一時期「夢占い」にはまったことがあった。
TVでも心理ゲームみたいのがブームだった時代があって、「それいけ!!ココロジー」とかもよく見てたっけ。
で、その時に買った夢占いの本がまだ家にあったからパラパラと読んでみた。
なんでも「ヘビ」が夢に出てくる場合は色んな意味があるんだけど、総体的に言えるのは「近い未来に大きな変化が訪れる予兆」らしい。
それは「良くも悪くも」
ヘビに噛まれたり、巻き付かれたり、ひたすら追いかけまわされたり・・・色んなシチュエーションはあるんだけど、どれも「自分に対して何かが向かってきている」という前兆みたいな感じらしいです(詳しくはわかんないけどね)。

世界観自体がどことなく抽象的なんだけど、ちょっとずつ棘みたいなものもチクりと残す。
だけど、最後まで直接的に「これ」という明確な提示は行わずに、観た人の数だけイメージが膨らむような余地もちゃんと残してくれる。

今作に限らず、今回の4作はいずれも原作を読まないまま「ウェス・アンダーソンの表現」のみで受け取ったため、ロアルド・ダール氏が本質的に表現したかったものとはもしかしたら違った形で届いてしまったかもしれない。
でも、個人的には「それはそれ」として観たまま額面通りに受け取っていいかなとも思っている。

ウェス・アンダーソンが今世紀最高の映画監督かどうかはまだわからないけど、少なくとも「唯一無二」の何かを持っていることだけは確かだと思う。

ちなみにハリーが読んでいた(お腹の上に置いていた)「The Golden Lotus」という本は、中国の4大奇書の一つに挙げられる「金瓶梅」というものらしい。
原作小説の『金瓶梅』の場人物のほとんどは悪人であり正しい人間があまり出てこないことも特徴で、それが理由かどうかは定かではないけど、何度も発禁処分を受けているいわくつきの小説とのこと。

果たして、この本をさりげなく見せたのはどういう意味があったのか・・・・
現在考察中です・・・。
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