ささ

エアのささのネタバレレビュー・内容・結末

エア(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

一生を戦争の最中で生きるという事。
戦争を知らない自分にとって、この映画を鑑賞する間は抜け出せない戦争の途方も無さを感じさせられた。

幼い内から戦争に晒される人々。
怯えや悲しみにくれる人もいれば、抗おうと訓令兵として志願する人もいるだろう。
でも、実際に戦場へ向かえば殺し、殺されの命の奪い合いを突き付けられる。

訓練と評して飛行機の玩具で練習する兵士の姿や画面に多くの兵士が身を寄せ合って戦う理由や身の上話をするのが印象に残っている。
そんな仲間が戦場で死んでいく姿をみる。

海辺の基地に打寄せる波や空の雲、霧の白色の風景が戦闘から戻った時には夕焼けの赤に染まって多くの仲間の死を思わせた。
その後の訓練場に一人座り込む兵士も印象的だった。

志だけでは戦争で勝てない。
上官は兵士に馬を殺させる。殺生をするには道徳観を変えないと。
戦争とはそういう事なんだと感じた。
女も子供も関係なく戦場で戦う。でなければ、敵兵に自分も含め大切な人が殺されてしまうかもしれない。
寿命を全うする事の方が少ない時代に少しの生きれる可能性にかける。
壮絶な価値観に唖然となった。


兵士が戦果をあげて帰還した時には、浜辺で戦闘機と兵士を映していて、訓令兵から兵士へと変わった様に思えた。

多くいた訓令兵が死に、中盤で主人公はこの人かと分かった。
そして、主人公の生い立ちが語られる。
それは優秀なパイロットだった父親は戦闘機の不備を報告したのを反発として受け取られ処刑されたというものだった。
両親は幼い主人公の巻き添えを避けて逃がしたが、孤児となった主人公は孤児院の先生に犯されてしまう。
いつか先生を殺す為に生きている。そう主人公は言う。
敵軍だけでなく自国でも傷付けられ自身の存在を証明する為に主人公は生きているんだと思った。
だから、主人公は生き延びてたのかもしれない。

過酷な戦争の合間に音楽や美術がでてくる。
歌や絵は作者の想いが込められている。その想いは故郷のことであったり、喜びであったり、安らぎであったり。
人が獣でなく人間として生きる為の理性を保っていると思えた。

作品全体を通して色使いも印象に残った。
序盤は訓令兵の白いガウンや雲などの白から夕陽や血の赤へ。その後、血の変色の様に地上の泥の茶色。軍服の黒色と心の変化を表している様だった。

長い戦場の日常。
帰艦してはまた戦闘に飛び立つ日々。
生き残り続ける日々の中で生き残り同士の信頼がうまれていく。

序盤に上官が熟練されたパイロットがいない。訓練に力を入れよ。と命令をする。
それが達成され、勝ち始めるのは終盤頃で、そこまでの道程が途方もないと感じた。

上官と主人公が恋人になる流れも、他の兵士も度々恋仲になっているのは映されていた。主人公は戦争中でも自由になれると言っている。
戦争が日常になった感覚だからそこ踏み出した様にも捉えられるし、逆に心の支えが欲しかった様にも思える。

そこに敵軍が撤退を始めたと連絡が入る。
喜びに満ち溢れる兵士たち。観ているこっちもやっと終わると思えた。

でも、次のシーンでは自国の侵略による戦闘が続いていた。主人公はやつれ年月と疲れを感じる。

主人公は軍の位が上がっており訓令兵が入隊してくる。そこに冒頭の自分を重ねる。
そして当時、訓練兵の指揮に当たっていた女上官にも今の主人公が重なる。
こうやって人が立ち代り、何十年と繰り返されている戦争の終わりのなさ。想像し得ない程の戦死者を思った。

信頼できる人たちは先に死に、ひとり戦場に残されていく寂しさを鑑賞している自分も感じてしまう。

エンドロールの合唱は戦争で亡くなった人々への安らぎを願っている様で泣きそうになった。

上映後のQ&Aで、あえて映像を途中で切る様にドキュメンタリー的な映し方をしていたり、ビックバジェットではやりたくなかったと仰っていたので、エンタメ的にせず、リアルに近い戦争の悲惨さを描いていて、当時の人々への真摯な態度だと思った。

また敵兵に対しても世代の移ろいを感じた。

戦闘機内から伝わる迫力も凄く、役者の表情筋が重力に引っ張られてピンッと貼ったり、たるんだりする。(印象に近いのは他作品トップガンマーヴェリックだが、今作は独自の技術でこの映像を撮れたそう。)
機内からの見えずらい視界に何回も周囲を見回す。
少しでも気持ちが負ければ、狙われ殺される緊迫感があった。
また、雲に隠れる事が命を守ることに繋がる中で、ある戦闘中に太陽に照らされるカットがある。その時は必ずどちらかが死ぬという暗示のように感じドキドキした。
ささ

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